濃紺に染まる赤を追え。
からかうようにそう言うと、桐谷は笑みを深めて。
「よっこのおかげ」
囁くように言った桐谷は、無条件に頬が染まったわたしを見てか、右の口角だけを上げて意地悪に笑った。
きっとこれは確信犯だ。
「……そう、それは良かった」
ふて腐れて吐き出した言葉は、やっぱり可愛げの欠片もない。
さらに大きく笑う桐谷は、どこまでも性悪だ。
「よっこの両親は面白い育て方をしたな」
「普通のサラリーマンとパートなんだけどー?」
どうしていきなり両親の話になるのだろう、と思いながら口先で反論を紡ぐ。
「一般ぴーぽーか」
「“people”ね」
「ぴーぽー」
小学生のような舌足らずの口調で、ケラケラと笑った桐谷は、不意に呟いた。
「普通ほどいいものってねーよ」
どこか切望するように聞こえた小さな言葉に、いつかの噂を思い出す。
「桐谷のご両親は、……」
言いかけて、惑う。
地雷を踏んでしまうんじゃないか、とか、わたしが聞いていいのか、とか。
色んなことが頭を駆け巡り、結局口を噤んでしまう。
そんなわたしを見越したように、桐谷は口を開いた。