濃紺に染まる赤を追え。
明日からもよろしく、そう言って向けられた背中。
凛としてドアへと足を進めたその後ろ姿に向けた“ありがとう”は、届いていただろうか。
相変わらず分かりやすく纏めてあるノートを写させてもらいながら、不謹慎にも思い出す。
本来なら気まずくなるはずなのに、全然そうなっていないように思えるのは、堤くんが普通に接してくれているからで。
気遣いができて、成績も良くて、運動も出来て、爽やかで人当たりもいい。
「言うことなしじゃん、なんで振ったのか意味分かんないんですけどー」
昼休み、ナミさんはやって来て早々、口を開いた。
予想もしてなかった言葉に、思わずむせ返る。
「……え?」
「勿体ないよあんた、理想高すぎー」
「なんでナミさん知って……」
「あー、噂」
けろっと言って退けたナミさんに落胆。
「噂って……」
「どうせ偶然見たやつがベラベラ話したんでしょ。つか放課後の教室とかあいつもなかなかやるなー」
「……」
「そのあともすごい普通に接してるみたいだし、なんかもう完璧じゃね?」
「うん、そう、そうなんだけど」
隣のクラスのナミさんにまで知られているということは、結構知れ渡っているのだろうか。
高校生の噂って怖いな。