濃紺に染まる赤を追え。
傘は君を救えたか
「駄目だ、今日も見つからない」
疲労感を漂わせながら教室に戻ってきた堤くん。
その姿を視界に捉え、ノートを差し出す。
「お疲れさまー。はい、ノート」
「ありがとう」
席に着く堤くんと交代するように立ち上がる。
いつものように、そのまま出て行こうとしたけれど。
「最悪、雨降ってるし」
「うっそ、あたし傘持って来てない」
「まじ萎えるわー」
聞こえたそんな声に、反射的に窓の外へと視線を向けると、確かにサーッと雨が降っていた。
屋根のない桐谷のテリトリー。
雨の日、たいてい彼は保健室にいるか学校に来ていないかのどっちかで。
あまり屋上にいることはない。
けれど。
「あれ? 松村、どうした?」
「折りたたみ傘あったかなと思って」
そうは知っていても、鞄を探り折りたたみ傘を取り出すわたし。
赤い無地のそれを見つけ、握り締めて足を進める。
行ってらっしゃい、と言った堤くんの声を背中で受けながら教室を出た。
教室へと戻っていく人波に逆らう。
途中、授業へ向かう先生に出会うと、ご苦労さん、なんて声を掛けられた。
これからわたしが桐谷を探しに行くだけだと信じて疑わない先生たちに、わたしはいつものように“優等生な学級委員さん”を演じる。