濃紺に染まる赤を追え。
――――――――――――――
――――――――――
「失礼します」
軽くノックをして、ドアに手を掛けた。
開けた途端、少し鼻につくような独特な匂いとともに、ほどよい冷気がやってくる。
わたしはまず、保健室へ確認に来ていた。
「あら、いらっしゃい」
「こんにちは」
柔らかな笑みを浮かべてこちらを見た先生。
優しいおばちゃん、という雰囲気の先生には、雨の日にいつも顔を合わしているからか、どうしたの、なんて聞かれることはもうない。
笑顔を返しながら、ちらちらと視線を動かす。
「あの、桐谷は……?」
毎度のようにそう問えば、先生は考えるように首を傾げた。
「今日は来ていないわ」
「あ、そうですか」
ごめんなさいねえ、と先生が悪いわけでもないのに謝られ、どうしていいか分からず曖昧に苦笑い。
ドアのところに突っ立ったままだったので、一歩後ろに足を引き、軽く頭を下げた。
「ありがとうございました。じゃあ、失礼しました」
そう言って立ち去ろうと、ドアに手をかけたときだった。
「あ、ちょっと待って陽子ちゃん」
呼び止められて、手を止める。
何だろうと首を傾げると、先生は少し考えるように首をひねっていた。