黒十字、邪悪なり
クルリと背を向け、再び歩き出す邪悪。

彼は実に不可解だった。

後を追うセシル達からは、どう見ても歩いているようにしか見えない。

ゆっくりと歩を進め、優雅に散歩でもしているような足取りにしか見えない。

なのに追うセシル達は、走っても彼に追い付く事が出来ないのだ。

厳しい訓練で鍛え上げたセシル達が、息が上がるほど走って追いかけても、今にも見失ってしまいそうになる。

まるで狐に化かされているようだ。

いや、それもあながち間違いではあるまい。

人間を惑わすのは、化け物の常だ。

こうやってセシル達を翻弄し、邪悪は愉しんでいるに違いなかった。

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