黒十字、邪悪なり
「やぁ、ベナル・ヨアキム・シュターセン」

邪悪が食事中の男に告げる。

「ん…?…来たのか、ジャーク・ブラッククロス」

フォークとナイフを持つ手を止め、ベナルは顔を上げる。

「どうしてもう少し待てないのだ貴様は。見れば分かるだろう、俺は食事の最中だというのに」

「貴様の都合なぞ知った事じゃない。素敵なディナーなのは認めるがな」

そう言って。

「貴様らもそう思うだろう?」

邪悪は肩越しにセシル達の方を見て、くつくつと笑う。

「っっっ…」

セシルも、マーフィも、ワナワナと震えていた。

要救助者がいるからこそ。

助けを求める者が待っているからこそ。

どんな艱難辛苦にも耐えられる。

そう思っていたから、アンデッドの蔓延るこの超高層ビルをも踏破してきたというのに。

希望が絶望に変わった瞬間。

心が折れた瞬間。

ガクリと膝をついたマーフィ。

彼はホルスターからグロック17を抜き。

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