黒十字、邪悪なり
「で」

コツ、と。

邪悪がセシルの傍らで向き直る足音が聞こえた。

「貴様はどうするんだ、お嬢ちゃん?」

「……」

俯き、呆けたまま、セシルはその声を聞く。

「目の前にいるのは不死の王(デミリッチ)ベナル・ヨアキム・シュターセン。幾度となく人の世を脅かし、時代時代の勇者、英雄、化け物退治の専門家達によって何度も活動不可能なまでに肉体を破壊され、拘束を繰り返されて尚、死なないもの」

「……」

「隣にいるのはこの俺…黒十字 邪悪。いつから存在していたのかさえ分からない、高位の魔物。潰しても、切り刻んでも、焼いても死なない。常に戦いを求めて第一次大戦、第二次大戦に参加、枢軸、連合軍双方の部隊を何度も壊滅させてきた」

「……」

「そして貴様は人間。ちょっとばかり鍛えて、ご立派なイチモツを手に入れて強くなった気でいたものの、現実を直視させられ、お仲間も目の前で頭ぶち抜いて自害し、絶望のどん底に叩き落とされた憐れ極まりないお嬢ちゃん」

「……」

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