黒十字、邪悪なり
眷属となり、化け物になりたてのセシルの理解の範疇を超えた会話だった。

人間ならば即死している傷だ。

あの傷で、まだ軽口が叩けるのか。

「そんな目で見てもらっちゃあ傷つくな、元人間」

ベナルの口角がつり上がる。

「化け物を見るような目で見ているがな…貴様もそうなんだぜ?」

たっぷりと間を置いて。

「なぁ、化け物」

ベナルはセシルに言い放った。

その言葉で改めて自覚する。

そうだ。

自分もそうなのだ。

腕を千切られても、体を貫かれても死なない。

自分も彼らと同じ、醜悪な化け物になったのだ。

『化け物』と呼ばれても傷つかない。

そんな精神状態が、何よりの証拠…。

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