黒十字、邪悪なり
「やはりいたか」

男は細く、しかし頑強な金属の針で、食らいつく前のゾンビの眉間に穴を穿った。

正確には『針』ではなく『鍼』。

身体の特定の点を刺激する為に専用の鍼を生体に刺入または接触する治療法に使用する鍼だ。

鍼は治療に用いられるほか、何度も強く刺して拷問に用いたり、逃げないように入れ墨を彫ったり、目を潰すなどの責め具にもよく用いられた。

今でこそ医療器具のように思われている鍼だが、本来は拷問具だったのだ。

男が持っていたのは、銀製の鍼。

銀は化け物に対して高い殺傷力を与える神聖さを持つ。

そして鍼は東洋医学の技術。

この男は、東西双方の技術を化け物駆逐の為の祓魔術として用いた。

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