黒十字、邪悪なり

決して広くないこの九龍都市に、数十万を容易く虐殺してしまえるような化け物が同居している。

あの大災厄が再び起きてもおかしくない状況。

「何の為に戻ってきたのベナルッ…」

「おかしな事を言う」

セシルの言葉をベナルは嘲笑った。

「元よりこの都市は、俺が死都に変えたもの。元よりこの都市は、俺が根城にしていたもの。貴様らが盗人猛々しく棲みついたに過ぎない。俺は己の領地を奪い返しに来ただけだ」

それはつまり、邪悪との遺恨を果たしに来たという事。

46万もの犠牲者を出したあの大災厄では飽き足らず、ベナルは更なる暴虐を振るう為にこの場に立っているのだ。