黒十字、邪悪なり
「あーあ…」

前を歩きながら、セシルが溜息をつく。

「侵入者の殺害を命じられたのに、逆に共闘してベナルから逃げる羽目になっちゃうなんて…サーに知られたらキツイお仕置きされちゃうなぁ…」

「別に構わんぞ。何なら今からでもその命令を遂行するか?」

不敵に背後で呟くヨセフ。

セシルは慌てて振り向く。

「いやいやいやいや!無理だよ!ベナルにあれだけの攻撃が出来る祓魔師を、私一人で殺すなんてできないよ!でもなぁ…サーのお仕置きも怖いなぁ…前なんて手足を千切られて三日三晩下層部の通路に放置されたもんなぁ…手足の再生があと少し遅かったら、溝鼠や野犬の餌にされるとこだったよ…」

そんな思いをしてまで、よく邪悪の眷属でいられるものだ。

「私には、もう選択権なんてないんだよ…」

セシルは静かに呟く。

「10年前のあの日…それでも死にたくなかった…化け物に成り下がり、未来永劫闇の中を歩み続けなければならないと分かっていながらも、死ぬ事だけは怖かった…本当に追い詰められた者じゃないと、この気持ちは分からないよ…」

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