黒十字、邪悪なり
セシルの歩いた後を、辿っていく。

建物自体は風雨に晒されて、カビや苔が生えている。

決して手入れの行き届いた、衛生的な建物という訳ではない。

化け物が棲みつくような場所だ。

清潔さとは無縁の場所と言えるだろう。

ここがかつて、ヨセフが少年時代に過ごした故郷。

彼の幼い頃の記憶とは、似ても似つかぬ廃墟同然に変わり果ててしまった。

最早思い出と呼べる場所ですらない。

ヨセフの横顔に、哀愁すら漂う。

と。

「きゃあっ!」

悲鳴と共に、前方を進んでいたセシルが消えた。

見れば。

「あいたたたた…」

数メートル下の、建物と建物の隙間にポッカリ出来た、一坪程度のスペースに落下して尻餅をついている。

屋上の苔に足を滑らせ、落下したらしい。

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