黒十字、邪悪なり
「どん臭い化け物もいたもんだな」

ヒョイと飛び降りて、セシルのそばにやって来るヨセフ。

「えへへ…面目ないです…」

ぶつけた尻を撫でながら、セシルは照れ臭そうに笑う。

その声とは別に。

「……?」

クチャクチャと、音が聞こえた。

粘着質な、水音に近い。

それが咀嚼音である事に気付くのに、時間はかからなかった。

鍼を、ゾロターンカスタムを構えるヨセフとセシル。

一坪の狭いスペース、その薄暗がりの中で、不気味な眼光が幾つも輝いていた。

目が暗闇に慣れてくると分かる。

ここは、落とし穴。

屋上を伝っていく都市の住人が足を滑らせてここに落ちると、待ち構えていたゾンビやグールによって生きたまま貪り食われ、食い殺されるか同じくアンデッド化してしまう。

ここはそんなアリジゴクの巣のような場所だった。

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