黒十字、邪悪なり
世界は零に還っていく。

ベナルが不死の王としてこの世界に誕生する前に、この世界に国家が誕生する前に、人間が繁栄する前に、人類が知能を獲得して道具というものを扱い出す前に、直立歩行を始めて猿から進化する前に。

その頃にはベナルなど影も形も存在せず、ベナルが存在しないのだから数十億のアンデッドさえ一体もおらず、それどころか人類という種すら世界には誕生しておらず、人間がいないのだから街も都市も村さえもなく、世界には延々と緑の大地、広大な森林、聳え立つ山岳、なみなみと水を湛える川や湖、何処までも続く水平線しか存在せず。

そんな太古の風吹き抜ける大地に、邪悪とセシルだけが存在した。

全ての生命の祖だけが存在する原初の世界に、邪悪とセシルだけが。

< 307 / 310 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop