恋の治療は腕の中で
「紗和ちゃん、藤堂先生とはもう慣れたかい?」


以前、医院長にアシスタントを代わるかわりに、フレンチのディナーをご馳走してもらう約束をして、今日そのフレンチに来ている。


「はい。

いえ、正直医院長のアシスタントに戻りたいですよ。」


私は、前菜の菜の花とレバーのテリーヌを頬張った。


美味しい。

さすが銀座のフレンチ。


「えー、そうなの。嬉しいこと言ってくれるなぁー。

でも何で、何で?」


医院長、子供じゃないんですから、そんな無邪気に聞かないで下さいよ。


「患者さんに対しては文句はないんですよ。

ちゃんと治療内容もわかりやすく説明しますし、患者さんが納得いくまで話しますし。

それに、いつも笑いかけてるんです。だからきっと患者さんも安心して治療を受けていると思います。」



枝豆のポタージュが運ばれてきた。


私は、一口、口に運ぶ。


ううう。これも美味しい。

全然青臭くなくて、それでいて枝豆の香りがすごくする。


「紗和ちゃん、それで。」


もう。ちゃんと味あわせてよ。


「でも、スタッフに対する態度が悪過ぎます。

言ってる事は間違ってないけど、言い方ってあるじゃないですか。

私は、いいですよ。言われると逆に燃えるタイプなんで。

でも、受付の子はあれじゃ辞めちゃいますよ。」


「うーん。そうなんだ。

でもね紗和ちゃん。藤堂先生根は好い人なんだよ。

それは僕が保証するよ。」


あちゃー、医院長そんなに藤堂先生のことフォローするなんてちょっと言い過ぎたかな。かりにもドクターなんだしね。

「でも、患者さんのいる時は、絶対叱らないんですよ。

必ず帰った後なんです。

それは、偉いっていうか………。」

フォローしたつもりが、私ったら上から目線になってるかも。


「そう言う所は尊敬します。」


これは私の本心。


海老名歯科にはいないけど、自分の気分でアシスタントに八つ当たりしたり酷いドクターだとCRの充填機を投げつける人もいるらしい。

ほんとそんなドクターは最低だ。


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