恋の治療は腕の中で
「ごめん、紗和。

こんな話しさせて。

お前が帰りたいなら直ぐにこの家を出よう。」

「ううん。

今の私には悠文がいるでしょ?だから全然平気だよ。

こんな風に思えるようになったのだって悠文がいてくれたからなんだよ。」



「紗和さん。

……
と呼んでもいいかな?」


「はい。」

「あそこの花は知っているかい?」


「は、はい。ダリアですよね?」


「そう。よく知っていたね。」

「クリスマスの時悠文あの花を部屋中に飾ってくれたんです。」


「悠文が……、そうか。

あの花は悠文の死んだ母親が大好きだった花なんだ。」

「それで、お部屋のあちこちにこの花が飾られてたんですね。

お父さんは今でも悠文のお母さんの事が大好きなんですね。」


「ば、ばかな!

そんな事あるわけない!こいつは、お袋を見捨てたんだ。」


「私のね、お父さんは何かあるとよくガーベラの花を買ってきたんだ。

私の誕生日や入学式やテストで100点とってきた時にも買ってきたっけ。


一度何でいつもこの花なのか聞いたことがあるの。そうしたらお父さん、『これはお母さんが大好きだった花なんだよ。だからこの花と一緒にお祝いしたいんだ。』って。

お父さんも同じなんですよね?悠文のお母さんの大好きだったこのお花を見ることで奥様を思い出していたんじゃないですか?」


私が話し終えるとお父さんは片方の指で両瞼を押さえた。
その手の下から涙が頬を伝っていくのが見えた。悠文にも見えたと思う。だって悠文凄い以外そうな顔してるから。


「お父さん。もう本当の事を話したらどうですか?」


「本当の事?」

怪訝そうな悠文を他所に隆文さんが話しを続ける。
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