恋の治療は腕の中で
「僕の事は気にしないで下さい。

貴方の心遣いには感謝していますよ。だから次は悠文の番です。」


「はぁー、何いってんだよ。

訳わかんねぇー。」




「すまない隆文、お前は知っていたのか。


私と悠文の母さんいや、悠美は小さい頃いつも一緒に遊んでたんだ。

悠美はいつも私の後を着いてきていた。そんな彼女を私はいつの間にか愛するようになっていた。そして悠美も同じく私のことを愛してくれたんだ。
私達は結婚の約束をしたんだが、お前達のおじいさんに反対され私は隆文の母さんと結婚させられたんだ。

隆文が産まれて私は悠美の事はもう忘れるつもりでいたんだが忘れるどころか会えない事が余計に悠美への想いを募らせていった。
隆文の母親にはすまないと思いながらな。

その頃悠美はデザイナーとして活躍していてあるパーティーで偶然再会したんだ。
それからの事はお前達が知っての通りだ。」


「お父さん、何を今更まだ隠そうとしてるんですか。」

お父さんの話しを理解出来ずにぼーっとしていた悠文が、

「なんなんだよいったい!

まだ隠すって、ハッキリ言えよ、親父!」


何も言わず俯いているお父さんに変わって隆文さんが話しだした。


「悠文、お父さんは悠美さんが倒れた時駆けつけなかったんじゃないんだ。駆けつけられなかったんだよ。」


「…………。」


「悠美さんは癌だったんだ。彼女はもう自分が永く生きられないことを知るとお父さんと僕に悠文に心配かけさせたくないからこの事は黙っててくれって、そして今まで通り私には冷たく接してくれと。
急に態度が変わったらお前のことだから悠美さんの異変に気付くだろう。

だからお父さんは駆けつけなかったんだ。」


「そんなの……、母さんの言った事なんて無視すれば良かったんだよ。」


「僕もそう言ったさ。

でもお父さんは、それじゃあ僕の母さんに申し訳ないって。お父さんは悠美さんのことを愛し続けながら母さんと結婚したんだ。母さんはそのことに気が付き精神を病んでいったのさ。」


可哀想な隆文さんのお母さん。もし私が同じ立場だったら一体どうなっていたんだろう。



「悠文さん。この別荘のお父様のお部屋見たことあります?」


「親父の部屋?」


「そうですわ。

私一度だけ入った事がありますの。」


「麗香さん。その話しは……。」


「いいえ、お父様。お話しさせていただきます。

あのお部屋にはダリアの花と一緒に悠文さんと悠美さんのお写真が沢山飾られているんですよ。」

「う、うそだ!」


「あらっ、それなら見に行ったらいいじゃないですか。」

悠文はこの部屋を出て行くと走ってお父さんの部屋に行った。


「母さん……。」


< 154 / 163 >

この作品をシェア

pagetop