恋の治療は腕の中で
お昼休みになり、悠文は医院長と何処かへ食べに出掛けた。


「医院長。お話があります。」


お蕎麦をすすりながら
「なに~。改まって。紗和ちゃんと何かあった?」



あ~。この人ってとぼけて見えて実は全てを悟ってるんだよな。ほんとこのタヌキじじい。


俺は正直に全部話した。

酔って仕方なく家に連れて帰ったことや、行き掛かり上そう言う関係になったこと。正式ではないが、婚約したこと。それとアパートが火事のせいで水浸しになり住めなくなったので、一緒に住むことになったこと。


医院長は最後まで黙って聞いていた。


「ふーん。藤堂くんさぁー。
大人同士だから僕がとやかく言う事じゃないんだろうけど、君は紗和ちゃんの事どう思ってるのかな?
僕が二人をあおったのも悪かったけど、僕にとって紗和ちゃんは、娘みたいなもんなんだよね。
だから彼女の泣く姿は見たくないんだけど。」



「彼女の生い立ちは、聞いてるかい?」



「はい。本人から聞きました。」


「そうか。ならきみなら分かるよね?

彼女がどういう気持ちで、今まで生きてきたか。」


きっと、紗和は自分を愛してくれた人がいなくなる寂しさを知ってそんな辛い思いをするくらいなら一人で生きていった方がましだと思うようになったんだ。


その気持ちは痛いほど分かる。

自分も同じ痛みを持っているからだ。






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