恋の治療は腕の中で
午後も医院長と何とか仕事をこなし帰ろうとスタッフルームを出たら


「紗和ちゃん。ちょっといいかい?」


医院長に呼ばれ医院長室のドアをノックした。


「どうぞ。」


「失礼します。」

ドアを開けると今日非番の瑞季がいた。

「瑞季、どうしたの?」


「まあ、とにかく座りなさい。」

何時になく真剣な顔の医院長に、診察中何かミスでもしたんじゃないかと内心焦っていた。


「あのー、何か?」


「僕は今まで藤堂先生と紗和ちゃんのことは当人同士の問題だからと見てみぬ振りをしてきたんだ。
でもそれは間違ってたのかな?
瑞季くんに大体の話しは聞いたよ。

僕が悪かったね。二人を煽るようなことしなければ紗和ちゃんが辛い思いしないですんだのに。」


医院長!

「そんなことないですよ。

私こそ医院長にご心配おかけしてすみません。」


「僕は、紗和ちゃんのこと本当の娘だと思ってるんだよ。
だから心配なんていっぱいかけてくれて構わないさ。」


そんな風に思っててくれたなんて。医院長を家族のように思ってたのは私だけじゃなかったんだ。


私は1人じゃないんだよね?

私の事を思ってくれる医院長がいて瑞季や心奈もいる、それなら悠文と別れたとしても大丈夫。

嬉しくて鼻の奥がつんとしてきて目の奥にジワジワと混み上がるものがある。


「ありがとうございます。

おかげで吹っ切れました。」

うん。大丈夫。時間は少しかかるかもしれないけど。

そりゃー、悠文に会うのは辛いけど私にはちゃんと思ってくれる家族がいるんだもん。

「無理してないかい?

それでこれからどうするんだい?」


「正直無理してる部分もあります。

でも大丈夫です。少しずつ大丈夫になっていきます。

とりあえず、新しく住む家をさがします。
藤堂先生とはちゃんと話さないとですよね?」

吹っ切るって言ったばっかりじゃない。しっかりしろ!

「住むところねー?

…………。

紗和ちゃんさえ良ければ僕の家に来るかい?
あっまずいかな?男女が二人同じ屋根の下なんて。」


クスッ

やだー医院長ったら、さっき娘だと思ってるって言ってくれたばかりじゃない。


「お気持ちは嬉しいですが、甘えてばかりじゃダメなので自分で探します。」


「そうか、でもいいところがなかったら僕の所に住んでもらって構わないからね。」

「はい。ありがとうございます。

あのー、医院長?藤堂先生ってどうして今日休まれたんですか?」


「詳しいことは僕も聞いてないけど、ご家族の誰かが入院したとか言ってたよ。

紗和ちゃん何か聞いてないの?」


「は、はい。……」

また落ち込みそう。


「まああれだ。ご家族のことで頭がいっぱいだったんだよ。」


悠文に限ってそれはない。

私と顔を会わせるのも嫌なのかな?
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