恋の治療は腕の中で
担当の医師が代わったから、当然担当患者さんも代わる。


私は、急いで担当患者さんの顔と名前と現在の治療内容を昼休みや治療の合間に覚えた。


「高橋さん。 どうぞ。」

私は待合室にいる高橋さんの目を見て微笑みながら呼んだ。

高橋さんは、アシスタントが代わったのに自分の事を知っていることを、不思議に思っていた。

すると横から医院長の患者さんの暮さんが


「あれっ?紗和ちゃんは医院長のアシだろ?」


銀座とは言っても一本中に入ったこの病院には江戸っ子の患者さんも通ってくれてる。暮さんはその一人でいつも気さくに話しかけてくれる。

「そうなんですけど、これからは藤堂先生のアシになったんですよ。」


「そうなの。寂しいなぁ。

いやー、高橋さんとやら。ついてるねぇ。紗和ちゃんは腕のいいアシスタントだよ。だから安心して。」


そんな高橋さんに

「これから藤堂先生のアシスタントをやらせていただきます。

望月 紗和です。 よろしくお願いします。」

と声をかけた。


病院と言うところは、自分がこれからどんな治療をされるのか常に不安に思い緊張してるもの。

だから私は少しでもその不安を取り除いてあげなくてはいけないといつも心がけている。

自分自身は、歯の治療をしたことがなく歯科医院に行ったのは、研修が初めてだったので、虫歯の痛みを知ることはできないけど。





< 9 / 163 >

この作品をシェア

pagetop