春、君を想う
ライブは18時からだったが、シュンの提案で、朝から出かけることになった。

街に出て、お昼にファーストフードを食べて、おしゃべりをしながらウィンドーショッピングをして、ショッピングモールに隣接する観覧車に乗った。

向かいあって座る。シュンは、窓の外に視線を向けていた。いつもの明るい笑顔は、なかった。

『どないしたん?』

思わず、聞いてしまう。私の声にハッとして、急に見せる笑顔は、なんだか不自然に思えた。

『ポジノンのライブで弾けるために、充電してるんや』

『そっか!そやな…私も弾けるで!』

あと数時間で始まるライブに、2人はウキウキしていた。

『もうすぐやな…』

『ライブ?』

『…卒業式…』

シュンが染み染みと言うから、寂しく思えた。

『シュンの第二ボタン、争奪戦になるで!』

『ふふっ、ならへん、ならへん』

そう言って笑うシュン。笑うと見える八重歯を、本人は気にしていたけれど、私はかわいくて好きだった。

『学ランのボタンって、5つあるやん?それぞれに意味がある…って、知ってる?』

『意味?』

『うん。一番上が自分。二番目がいちばん大切な人。三番目が友人。四番目が家族。五番目が他人…』

『へぇー、そうなんや』

そのうち、私たちの乗る観覧車がいちばん上に到着した。

『このまま、空に行けたらいいのに』

『空に行けたら』って、どういう意味なんやろ?シュンの、意味深な発言が気になった。

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