春、君を想う
家に帰るとすぐ、自分の部屋に入った。セーラー服のまま座りこむと、小さな紙袋を開けた。

「…あほ」

小さな紙袋を滑り落ち、手のひらで学ランのボタンが躍った。でも、それは一瞬のことで、すぐにピタリと動かなくなった。

私にこのボタンを…いちばん大切な人に渡すボタンを…くれるのなら、黙って逝かないでほしかった。

私を置いて、逝かないでほしかった。

何があったん?

死ぬくらい悩むのなら、私に胸のうちを明かしてほしかった。

なんで?

いつも笑顔を振りまいて、みんなに元気を与えていたのに。

『辛い』って、弱音吐いてほしかった。

「シュン、ありがとう」

手のひらで動かなくなったボタンをギュッと握りしめた。

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