続 でも、好きなんです
「・・・ごめん。」

窪田さんのにおい。

肩にかすった手の感触。

息遣い。

はっきり、残ってる。

「いえ・・・。」

「あー、ごめん・・・。

俺駄目だな、ごめん・・・。」

「あの・・・上着、ありがとうございました。」

私はそう言って、窪田さんの上着を脱いで、窪田さんに手渡した。

「窪田さんって、すごく優しいのに、時々、怖いです。」

私がそう言うと、窪田さんは悲しそうな顔をした。

「そうだよね・・・。

ごめん。

ちょっと、頭冷やすわ・・・。」

気がつくと、机は四列、綺麗に並べられていた。

「でも、課長があんな顔見せるなんて。

いよいよ僕、勝ち目ないかも。」

呟くようにそう言って、窪田さんはそのまま会議室を出ていってしまった。

ひとり会議室に残された私は、しばらくの間呆然としてしまっていた。

(課長のことが好きなのに・・・。)

課長のことが好きなのに、窪田さんにもドキドキしてしまっている。

それは、まぎれもない事実だった。

(私って・・・節操ないのかな。)

そう思って、ひとり落ち込んだ。

窪田さんに壁に押し付けられたとき、怖かった。

怖かったけど、嫌じゃなかった。

窪田さんはすごくいいにおいがして、顔が綺麗で、優しくて、細くて、でも男っぽくて。

あのまま、あの日のようにキスされていたら、どうだったろう。

ちゃんと拒否出来ただろうか。

なんだか、自信がなかった。

そんな自分に、やっぱり落ち込んだ。


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