続 でも、好きなんです
寝てしまってから、片想いの頃のほうが気楽で良かっただなんて、お子様としか言いようがない。

「・・・本当だよね。

どんなに大人ぶったって、結局私の中身は、ダサくて地味だった自分のまんまだよ。

身の丈に合わない恋愛してるって、自分でもよくわかってる。

でも、後戻りも出来ない。

時々、自分でも信じられなくなるんだ、自分が、あの課長と両想いになったなんて・・・。」

美穂は、今度は笑わなかった。

「まあたしかに・・・。

どんなに背伸びしたところで、良くも悪くも愛美は愛美だよね・・・。

でも、愛美、すごくあか抜けたし、綺麗になったよ。これは本当。

・・・中身も変わるべきなのかどうかは・・・、私にはわかんない。

どうなるのが愛美にとって幸せなのか。

不器用で、不倫なんか、やっぱり出来ないって言うのなら、そういう愛美のままでいるのも、幸せなことなのかもしれないよ?」

「・・・。」

美穂にそう言われて、複雑な気持ちだった。

美穂は、もっと明るく私を励ましてくれるような気がしていた。

あの明るい美穂でさえ、こんなふうに弱気になってしまうほど、不倫というのは人のエネルギーを奪っていくものなんだろうか。

不倫なんか、やっぱり出来ない、そう思って、やめられたらどんなにいいだろう。

さっき美穂は、不倫する女たちのことを、強欲、と言ったけれど本当にそのとおりだ。

覚悟も出来ていないのに、課長への欲を捨てきれない。

身の丈に合わない欲望を追い求める私は、いつか破滅への道を歩むんだろうか。

「でも、その課長さんはさ、別れてくれそうなんでしょ?奥さんと。」

私が黙っている様子を見て、美穂が私をフォローするように言った。

「うん・・・。と言うよりむしろ、奥さんと別れそうだったから、寂しくて私に走ったんだよ。」

課長は、今でも奥さんのことが好きなんじゃないのかな。

課長からの連絡がないと、そんなふうに考えてしまう。

奥さんのことが、今でも好きだから、あんなに寂しそうな顔をして、奥さんのかわりに私を抱いた?

「だったらいいじゃない。

もう少し待てば、堂々と付き合えるようになるよ。」

「うん、そうだよね、ありがとう。」

本当は、奥さんとのこと、もっと突っ込んで聞くべきなんだろうな・・・。
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