続 でも、好きなんです
「美穂は?

その後、どんな感じ?」

私は、明るい声で美穂に訪ねた。

「うん・・・会ってるよ。

月に2~3回かな。」

美穂はそう言って、テーブルの上に視線を落とした。

「でも・・・、時々すごく怖くなる。

もし奥さんにバレたら、とか。」

「そうだよね・・・。」

隠さなければいけない関係、そのことが、常に二人に緊張を強いる。

「本当かどうかわからないけど、裁判されたりすることもあるって聞くし・・・ね。

ああいうのって、何年か経ってから裁判起こすことも出来るらしいから、わざと、不倫相手の結婚が決まった頃に訴えてくる奥さんもいるんだって・・・。

ほんと、怖いよね。

別れて終わりじゃなくて、その後の人生まで、壊れるのかもしれない。」

そう話す美穂の顔は、大人の女の顔そのものだった。

「うん・・・。

だけどきっと、そうさせるくらい、奥さんを傷つけてしまうことをしてるってことだよね・・・。」

そう口に出してから、何を今さらいい子ぶってるんだと心のなかで思った。

いい子ぶってる・・・。

今日、窪田さんに言われた言葉が頭のなかでよみがえる。

「そうだね・・・。

だけど、愛美のところは、少し事情が違うじゃない。

先に、他に好きな人が出来たのは、奥さんのほうなんでしょ?」

「うん・・・そう聞いているけど。」

「なら、必要以上に暗くなっちゃダメだよ。

まあ、私の方は逆にもう少し慎重にしろって感じだけどね。」

美保がおどけて言った。

「うん、そうだよね…。

ありがとう。

でも、美穂がいてくれて良かったな。

美穂以外の誰にも、こんな話できないもん。」

「まあ・・・、そうだよね。

不倫経験者って、実はかなり多いって聞くけど、リアルでは、相談なんてできないよね・・・。

でも、世間の奥様方から見たら、私たちって、いいとこどりでずるいって見えるらしいよ。

家事も育児もせず、お金の心配もせずに綺麗な格好して、わがまま言って、ちやほやされて、恋愛のおいしいところだけ味わってる、って。

そんなこと、全然ないよ。

その程度のことしか、できないんだよ。

彼のために、夕飯作って待っていられるわけじゃない、彼と朝まで一緒にいられるわけじゃない、・・・彼の子どもを産めるわけじゃない。

他にもまだまだあるよ。

外で手をつないで歩けない、彼の誕生日に会えない、昼間のデートはめったにできない…。

私たちが彼をつなぎとめる手段はさ、自分の言葉と体だけなんだよね。

そして、その愛情には、保証も何もない。

彼から、はいさよなら、って言われたらそれでおしまい。」

美穂はそうまくし立てて、グラスに残っていたワインを一気に飲み干した。

メニューで次のお酒を注文している。

「それ、すごくわかる。

時々、考えちゃうんだ。

これからしばらくして、彼がもし私に飽きて、さよならしたら、私はひとりぼっち。

でも彼には、帰る家がある。」

「ま、それまでの間に彼が奥から捨てられてなければ、だけどね。」

美保はそう言って笑った。
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