続 でも、好きなんです
「まともな男ほど、家庭を捨てたりなんかしない。」

そう言う美穂の表情は、悲しそうでもあり、寂しそうでもあった。

…課長のことを話すとき、私はいったいどんな顔をしているんだろう。

「いいことなんかないんだからやめろって思うんだけどね・・・。

適当に遊んだら、別れるつもりだったんだけどなあ。

気持ちって、思うようにならないよね、ほんと。

…きっとさ、こうなったら、とことん、燃え上がったほうがいいんだよ。

そのほうが、早く消える。

そう思うけど、なかなか消えてくれないんだよねえ・・・。」

美穂は、はあ、とおおげさにため息をついた。

「…でも、わかんないじゃん。

美穂の彼氏さん、奥さんより、美穂を選ぶかもしれないじゃん。

世の中、そんな人たくさんいるよ。

…結婚したあとに、本当に好きな人に出会っちゃうことだってあると思う。」

いつになく、力説してしまっていた。

元気のない美穂の顔を見ているのはつらかった。

「…彼がさ、奥さんと別れて私と結婚して…幸せになれると思う?

彼の親からの目とか、前の奥さんとの関係とか、周りの目とか、そういうの、離婚したって、消えてなくなるわけじゃないんだよ?」

美穂の表情は強ばっていた。

「…なれるよ。

好きな人と一緒になれるんだもん。

…はじめは大変なこともあるかもしれないけど、時間が経てば、笑って話せるようになる…って、私は思いたい。

誰かをものすごく傷つけたりせずに、皆が幸せになれたらいいのに。」

私の言葉に、美穂はなにか言いたげに口を開いたが、なにも言わなかった。

はあーと大きな声を出して、普段の美穂の調子に戻って言った。

「でも、愛美と不倫トークで盛り上がる日が来るなんて、思ってもみなかった。

ほーんと、世の中ってわかんないね。

あの愛美に不倫までさせるんだから、その課長さん、きっといい男なんだねー。

あーあ、会ってみたいな。」

美穂が言った。

もし課長が、普通の独身の男の人だったら、簡単に美穂に紹介することが出来るのに。

その後、美穂とは遅くまで話が盛り上がった。

別れ際、なにかあったらいつでも相談してよ、と美穂が言ってくれて、少し気持ちが軽くなった気がした。
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