続 でも、好きなんです
あの日から、気がつけば一ヶ月が経とうとしていた。

この一ヶ月の間に、課長とは、何度か会って、食事をした。

ホテルには、行っていない。



課長と抱き合うことで、あんなに幸せな気持ちになれたのに、もう一度抱き合うことが、なんだか怖かった。

なぜ怖いと思うのか、自分でもわからない。


二人の関係が、ありきたりの不倫になってしまうこと?

体の関係を持つことで、課長に対して、疑心暗鬼になりそうな自分?

本当は、毎日でも抱き合いたい。

課長の匂い、体温、感触、すべてが、私をとてつもなく幸せにするのに、さらに課長と体を重ねて、自分が溺れていくのが、怖い。




「おはようございます。」

職場での私と課長は、今までと何も変わらない、ただの上司と部下だ。

冷静な上司でいる課長を見ていると、今までの出来事が、本当に、すべて私の夢か妄想だったような気がしてくる。

「おはよう。河本さん、昨日作ってもらった資料なんだけど、ちょっといいかな?」

課長に呼ばれて、課長の手元の資料を覗きこむ。

資料にのせられた、課長の骨ばった手。

上司としての課長は、私に弱さも甘えも見せない、ただただ完璧な男。

こうしてそばで声を聞いていると、あの二人きりのホテルの部屋に時間を戻して、課長を、また私だけのものにしたくなる。

他のなにもかもを忘れさせて、私のことだけ考えさせたい。

この完璧な綺麗な男の人に、もっと私に夢中になってほしい。

「・・・で、またここのところだけ、直しておいてもらえるかな。」

「え・・・あ、はい、わかりました!」

完全に、話の内容が飛んでいた。

ああ・・・いけない。

今の私は、完全に恋愛脳だ。

おまけに相手は既婚者だなんて、人生迷ってる、私。

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