続 でも、好きなんです
「お、なんか、久しぶり。」

書庫で資料を探していると、後ろから同期の広瀬くんに声をかけられた。

「ああ、うん、久しぶり・・・かな?」

言われてみれば、しばらく顔を合わせていなかった気がした。

「なんだ、相変わらずつれないね。

なんかさ、河本さん、顔、疲れてきてない?」

広瀬君から突然そう言われて、面食らう。

「え、そ、そうかな?

…っていうか、久々に会って、いきなりそれは、ちょっと失礼じゃない?」

「ああ、ごめんナサイ。」

広瀬君は、悪びれない様子で謝罪した。

「でもなんか、広瀬君と、こういう意味のない会話してると、ほっとする。」

「なに、いつもそんなに気疲れしてんの?」

広瀬君が不思議そうに尋ねた。

「うん、まあ、ね・・・。」

たしかに、最近の私は、色々ありすぎる。

課長の考えていることとか、自分の気持ちとか、これからのこととか、なんか、考え事ばかりしているかも。

「若いのに、良くないよ、そういうの。」

「そうかもね、お肌にも、良くないね。」

「あれ、珍しく素直なお返事。」

「別に珍しくありませんけど。」

会話をしている途中で、探していた資料が書棚の上のほうにしまわれているのを見つけた。

背伸びをして取ろうとしたら、広瀬君が手を伸ばして取ってくれた。

「はい、どうぞ。」

「・・・ありがとう。」

ちょっと癪に思いながらお礼を言う私の顔を、広瀬君がじっと見ている。

ちょ、ちょっと、その腕どけてくれないと、いわゆる壁ドン体勢なんですけど・・・。

「あの、どいてくれない?」

「ドキッとした?」

「は?」

広瀬君は、おどけた表情で壁から離れた。

「流行ってんでしょ、今、こういうの。

俺、こういうことするのに照れとかないからさ。

ばっちり使わせてもらってるわけ。」

「・・・そういう舞台裏、聞いてないんですけど。

大体、私なんかをドキッとさせてどうすんのよ。」

「女性はドキッとさせてなんぼ!」

…本当に、広瀬君の調子の良さには呆れる。
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