続 でも、好きなんです
思わずため息が漏れる。

「広瀬君は、いいな。

いつも楽しそうで…。

毎日笑って過ごせるって、大切だよね。」

「なんだよ、意味深だなあ。

河本さんは、毎日笑って過ごせてないの?」

何気ない広瀬君からの問いかけに、思わず一瞬考え込んでしまった。

うん、と答えたら、なんだか自分が不幸せな人みたいだ。

私は不幸せなわけじゃ、ない。

だけど、毎日笑って過ごせているわけでもない。

今の状態って、一体なんなんだろう。

自分が、今、幸せなのか、不幸せなのか、わからない。

「…毎日笑って過ごせるよりも幸せだと思うのに、泣きたくなるときがたくさんある。

それが、悲しくて泣きたくなるのか、幸せすぎて泣きたくなるのか、自分でも、わからないの。

とにかく…、すごく、切ない。」

独白のように言ってしまってから、はたと我に帰った。

…まずい、広瀬君が呆気にとられて固まっている。

「…なにそれ、河本さん、恋愛小説家みたい。」

廣田君に呆然とした表情で言われて、とたんに恥ずかしくなった。

「あ、えっと、ごめん!

今のは、違うから!

特に意味はないっていうか・・・。」

そう誤魔化しながら、書庫を出ようとした瞬間、出口にいた山村課長にぶつかりそうになって、思わず声をあげた。

「!」

驚いて、資料を床にぶちまけてしまう。

課長は無言で、私がぶちまけた資料を拾い集めてくれている。

(・・・もしかして、今の、聞いてたのかな?)

課長は、今の会話を聞いて、どう思っただろう。

私が幸せじゃないって感じてると思ったかな。

資料を拾い集める課長の横顔をちらりと見る。

目を合わせてはくれない。

(…考えすぎだ。)

きっと課長は、今の会話を聞いてもいないし、仮に聞いていたとしたって、なんとも思ってない。

ただの世間話だ。



資料を手渡されるときに、課長と目があった。

いつもの冷静な課長だった。

その目からは、なにも読み取れない。

「ありがとう…、ございます。」

「ごめん。僕がよそ見をしてたから。」

そう言って、課長は、そのまま言ってしまった。

それだけだった。

(…職場にいても、課長のことばかり考えていて、課長のことで頭がいっぱいなのは、私だけなのかな…。)

職場で、何事もなかったかのように振る舞う課長と接していると、たしかに課長と両想いになれたはずなのに、いまだにひとりよがりな片想いのままのような気持ちになる。

あの日の出来事や、時々来る課長からのメールが、私の思い込みや夢なんかじゃなく、たしかに現実に起きたことなのだと、誰かに言ってもらいたいのに、そう言って私を励ましてくれる人は誰もいない。

課長と両想いになれたことが嬉しくても、それを笑顔で報告できる人はいない。

誰にも知られないように、隠し続けなければいけない、それが、私と課長の関係。

なんだかとても孤独だった。


その晩、課長からのメールがあった。
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