キライになりたい曲
ステージからアンプを通して聞こえるギターの音が、彼らの演奏が近いことを教えている。
「あ、別にだからこの人達の曲を聴けっていってる訳じゃないよ?
私は好きだから、一緒に聴いてくれたら嬉しいけどさ」
私の目線の動きから何かを感じたのか、
いそいで夏海がつけたすから、
自然に笑えた。
「顔が聴きたいって言ってるよ?」
「だって、聴きたいか聴きたくないかでいったら、
一緒に聴きたいでしょ」
居心地わるそうに口を尖らせる夏海。
「ここからでもいい?」
「え?」
「ステージちょっと遠いけど」
海に浮かぶステージは、
人の顔がなんとか認識できるくらいの距離にある。
それでもにっこり笑った夏海の顔に、
私はとても救われた。
大嫌いになりたいと避けていたあの曲を、
もう一度聞いてみてもいいかって
思えたんだ。