キライになりたい曲

『ごめん、もうちょっとだけ前で聞いてきてもいい?』


夏海が申し訳なさそうに、
私に両手をあわせて前の方へ向かったのは、
2曲目がはじまったあたり。

彼らの演奏がはじまってすぐに、
目を輝かせていた夏海に気づいていたから、
そうしてくれた方が気が楽だった。

だって、どうしたって思い出してしまう。


凛冬と私が好きな海と、好きな音楽。

凛冬が苦手だった夏の暑さの中、
苦い記憶しかない
アーティストの曲を聴いてるんだから。


ステージ上の彼らを見つめながら、
脳裏に浮かんでいるのは凛冬との記憶。

はじめて聴く歌詞にさえ、
凛冬を重ねながら聴いてしまう癖は、
いつになったらなくなるんだろう。


「それでは、最後の曲です!」


ボーカルがそう言って、
ギターが1音目を鳴らしただけで、
あの曲だとわかってしまうのは、

どうにかならないでしょうか。


「おめでとうの代わりに」

ー凛冬との、最後の曲。

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