あたし、『魔女』として魔界に召喚されちゃったんですが。


この男の手……。


 まるで、氷のように冷たい……。


 これ、本当に人の手?


 わずかに目だけを動かし、背の高い彼の顔を見上げた。



「っ!」



 そして、声を失った。


 だってその人は白く、時折銀色に輝く腰まである長い髪を後ろに流し、身体をすっぽりと踝まで覆うのは烏もびっくりの漆黒のコートをその身にまとっている。


 そして、鋭く冷たい光を宿す瞳は、紅い紅い、血の色を思わせる紅。


 一方、肌は血の気を失ったように白い。


 それと同じように色素の薄い、形のいい唇がスッと筋の通った鼻の下に位置している。


 そして、その唇の隙間から──白磁の尖った牙が見えた。


 恐ろしいくらい、美しいひと……。


 それに、牙って……この人……!


 
「この森を出ろ。 そして、二度と立ち入るな」



発せられる声すらも、氷のように冷え切っていて……。


 有無を言わせない雰囲気。

 
 その鋭い視線に、あたしは頷くことしか、できなかった。






 
 
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