あたし、『魔女』として魔界に召喚されちゃったんですが。
でも、落ち込んでいる暇はどうやらないみたい。
午後には式が始まっちゃうんだもの。
カカオには、クコに式のやり方を聞くように言われた。
つまり、あとこの数時間でその作法とやらを覚えなくてはならないのだ。
「クコ! お願い、助けて!」
「ええ。 大丈夫ですよ、まお様。 それほど難しいことはごさいませんから」
ふわりと微笑むクコは、天使に見えた。
ああ、荒んでいた心が安らぐ……。
作法を一通り聞いてみると、クコの言う通り特別難しいことはないみたい。
任命式の時に呼ばれたら前に出て、魔女の証を受け取ればいいのだ。
ただし、大変なのはそれから。
なんと〈魔女の証〉というのは、代々魔女に受け継がれてきた杖の銘らしい。
蔦が絡み合ったような風貌で、しかも国の中央に堂々と立つあの〈千年霊木〉の枝から作られたものらしいのだ。
〈千年霊木〉はウェズリアの魔力の全ての源。
根をウェズリア大陸中に巡らせていて、全ての魔力と常に触れ合っている。
そして、その名の通り千年とこの地に根を張り続けてきたこの木は、ついに意思を持った。
そんな枝から出来た神聖な杖は、放たれる魔力が強靭すぎて、杖よりも魔力の弱い者は触れる事すら出来なかったという。
杖よりも強い魔力。
そんなものを保有するのは魔女しかいない。
だから代々魔女に受け継がれてきたのだ。
魔女がこの国に誕生するたび、魔女は試練を受ける。
杖に主として認められるという、試練を。
そしてこの試練は、いつしか国を挙げての行事となった……。
「でも、こんな主役だなんて……カカオ、本当になんで早くに言ってくれなかったんだろう」