あたし、『魔女』として魔界に召喚されちゃったんですが。
そうして気を紛らわすためにもマナーやら儀式のことやらをクコに聞いていると、すっかり儀式を執り行う時間になっていた。
あたしはクコに連れられ、この城で一番大きな扉がある近くの部屋に控えていた。
普段は、王族以外が近づくことが禁じられている扉だ。
この扉の奥には代々の王族の財宝が眠ると言われ、〈魔女の証〉もそこに納められているらしい。
扉の本当の中身も、王族しか詳細は知らず、詳しいことはわからない。
極秘情報とされ、民衆の間では金銀財宝が眠っていると、密やかに噂されている程度だ。
そして、任命式。
クコから、歴代の魔女は無事に杖に認められたと聞いた。
けれど、あたしは?
あたしはこの世界に来たばかりで。
本当に魔女じゃなかったら?
もし杖に魔女として認められなかったなら、あたしはどうなるのだろう。
あたしは、魔女だから城に置かせてもらっている。
認められなかったら。
当然城は追い出される。
しかし、あたしに行く場所なんて他にはない。
どうしよう……。
緊張で身体はカチコチに固まり、手のひらは冷たい。
汗すら、出てこない。
そのとき、固く握り締めていた両掌が、突然温かいものに包まれた。
骨がゴツゴツと角ばっていて、大きな手のひら。
「まお」
その低く、柔らかく、綺麗な声。
なんでこんなに安心するんだろう……。
「大丈夫だ。 自信を持て」
なぜ、この一言で大丈夫だと、思えてしまうのだろう……。
彼は己の手のひらで包み込んだあたしの手を持ち上げ、黒の手袋の上から軽く口づけをした。
ああ、本当に様になる。
サラリとミルクティー色の髪が溢れるのを眺めていると、心拍が不思議と落ち着いた。