あたし、『魔女』として魔界に召喚されちゃったんですが。



「まお、前へ」



カカオがこちらを振り向き、あたしは僅かに前に進み出た。


代わりに彼は少し下がって、あたしと向かい合う。


あたしはマントを後ろへ払い、そこに跪くと、こうべを垂れて手を上に掲げた。



「この者に『魔女』の称号を与える!」



高らかに宣言したカカオは、あたしの手に杖を置いた。



「──命に代えても」



杖を握り締めて立ち上がる。


すると、杖が手のひらの中でドクンと脈打った。



『──誰だ』



脳裏に響く、男性とも女性とも取れない不思議な音程の〈声〉。


杖を握りしめ、震えないように声を振り絞る。



「……あたしは、この国の新たな魔女。 この国を守る為に呼ばれた」

『新たな魔女、か……』



突然杖から莫大な魔力を解き放たれ、それとともに紫色の光が溢れ出した。


あたしの魔力の色と同じだ。


すると、刹那。


あたし以外のもの全てが時間を止める。


辺りが一瞬にして白く染まり、ぼんやりとした光と魔力で包み込まれる。


特殊な結界によって隔離した空間が出来上がった。


儀式が、始まった。



『我は創世の魔術師 魔女を見定めし者。遥か昔、この世界が出来る時、この地に根を張り、この世界を見守ってきた〈千年霊木〉である。 歴代の魔女を主とし、仕えてきた。 今新たに生まれたし魔女となる者よ。そなたの名は何と申す』



杖がぶるぶると振動し始めた。




「あたしは、まお」

『まお』



あたしの言葉を連呼して、杖はまた黙る。


微かに魔力が杖から漏れた。



『──面白い、そなたは』

「え?」

『この世界のものではないだろう?』

「…………」

『魔力の質がこの国のものではない。 このような魔力を感じたことはなかった。 不思議な魔力だな』



杖から溢れる魔力が杖に触れている右手を伝ってあたしの中を緩く回っていくのがわかる。


段々と出力をあげて全身を触れる杖の強大な魔力。


正直、他人の魔力が身体を巡ることは違和感でしかない。


試されている……。


不快感が拭えず、今すぐにでも杖を投げ出してしまいたい。


けれど、カカオたちの顔が脳裏に浮かぶたび、それは押し留められていく。



「……確かにあたしはこの世界の住人ではない。 けれど、あたしはきちんと意思を持って此処に居る」



杖の振動がより大きくなった。


全身が揺さぶられる。


けれど手は、杖から離さない。



「──あたしは、護りたいから。この国を、皆を」

『それはそなたの真意か?』

「……もっとみんなと一緒にいたい。 ここにいたい。 それがあたしの真の本音」



もっとここに居たいというあたしの我儘。


この杖相手に嘘をつくことはできないと思った。




『──なるほどな。己の我儘の為に国を護りたいのか』

「そうよ」



力強く頷いたつもりだったが、身体を痺れが襲い始めていて、首はカクカクとした動きしかできない。


ふと、杖の魔力が切れた。


光が杖へと戻っていく。



『──そなたを我が主と認めよう。 行動を共にすればわかることもあろう。 力不足なら我を扱えないだけだ。 すぐにわかる』



本当に認めたんだか、そうじゃないんだかわからない発言に肩を竦める。



「空間を戻せる?」

『それは我が主の仕事だ。 我を使え』

「どうやって」

『出来ないとは言わせないぞ、新たな魔女よ』

「っ!」


有無を言わせないとはこのことか……!


杖を握りしめ、魔力を集中させる。


ふと、思い当たって己の魔力を切った。



『どうした』

「ちょっとね」



杖を掴んだまま、くるりと回転させる。


そして、そのまま地面に先端を突き立てた。


しばらく、異変はない。


が、杖から具現化した蔦状に魔力が走り、フッと結界が緩む。


空間が生まれた時と同じような紫色の光がこの空間を覆い尽くした。


あたしの手の中で、形を変えるその杖は、代々受け継がれてきたウェズリアの魔女の証。


長さはあたしの身長を遥かに越し、先端部分は横に大きく広がっていく。


杖をガッ、と地面につけば、光が止んで杖は全容を明らかにした。


木で出来た杖は、新たな蔦の模様に加え、大きな翼が生えたようだ。


そしてその中心にある宝石は先程のくすんだ色合いが嘘のように紫色の光を眩いばかりに放っている。




「無事、選ばれたようだな」



カカオは、儀式が終わったことへの安心感からか微かに穏やかな表情を浮かべている。





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