あたし、『魔女』として魔界に召喚されちゃったんですが。
「王子、活路が開かれました!」
隣で剣を構えたエディが声高く叫ぶ。
この戦いを終わらせるためには、指揮官の元へ行くのが一番手っ取り早い。
けれど……オスガリアと接するところへ近づくほど、兵士はうじゃうじゃと、無限に湧いてくる。
これでは、切りがない。
なんとかして、オスガリアへ行き、この戦争を止めるよう説得したいんだが……。
そのときだった。
「王子、危ない!」
剣を鞘から抜き出す金属音が聞こえて……。
「うおおぉ!」
柄を握った掌を下腹あたりに当てて、剣をぶれぬように固定した兵士が裂帛の叫びと共に俺に突っ込んできた。
兵士と俺が真正面からぶつかった。
「ふっ、やったか?」
オスガリアの兵士は、手応えがあったのか満足げに笑うと、剣先が抜けなくなり動かすことのできない剣から手を離す。
けれど、すぐにそれは違うことを思い知り、兵士は表情を固めた。
「──なにっ!?」
兵士は目の前のことを受け止め切れず、目を疑う。
当たり前だ。
「お前、もう一度剣をやり直したほうがいいぞ」
俺は、兵士が持っていたはずの剣の柄を持ち、兵士に向けていたからだ。
「それとも、もう一度俺とやり直すか?」
持っていた剣を、彼の足元に落とす。
そして、己が帯剣していた剣を、鞘からスラリと抜き放ち、彼の鼻先に突きつけた。
僅かに魔力が滲み出し、剣を青白いオーラが包み込むと、ぶぅん、と羽虫が飛び交うような音が微かに聞こえている。
少しでも動けば、顔のどこかのパーツは失われてしまう。
じょじょに兵士の鼻の頭に、玉のような汗がにじんできた。
ペタリと、兵士はへたり込んでしまう。
「ま、魔法だ! 魔法を使ったんだろう⁉︎」
せめてもの抵抗なのか、その兵士は言い草をつけてくる。
「……フン」
相手にする気も起きなくて、俺は剣を鞘にしまった。
わざわざ魔法を使わなくとも、動きを見極めることなど容易い。
迷いのある太刀筋ほど、隙が多く読みやすいものはない。
「王子、お見事です」
エディに至っては、隣で笑みを浮かべて拍手をしていた。
「剣術でお前に敵うものなどいないだろう」
「そんなこと。 俺は魔術の方はどうもいまいちで、護衛隊隊長として情けないですけどね」
頭を掻きつつ、照れたような表情を見せると、エディはたちまち幼く見える。
まだ27歳という若さで護衛隊隊長に任命されている彼は、隊長になった20歳の時からその顔立ちは変わっていないように思えた。