あたし、『魔女』として魔界に召喚されちゃったんですが。
なんでこんなことに……。
確かにまおの首筋には、きっちりと小さなふたつの傷痕が残っている。
「王子、まお様はアルバート様と結界に入ったあと、突然倒れられてしまわれたのです」
「うぅ~、まお様ぁ。 起きてくださいぃ~!」
冷静なリカエルと、ボロボロと涙をこぼしているクコ。
けれど、どちらも動揺していることはかわりない。
「クコ、治癒魔法はどうだ」
「ダメですぅ~。 たっ、試してもっ、まお様はお目覚めにならなくてっ……」
「……そうか」
単に血を吸われたというのなら、クコの治療で起きるはずだ。
この首筋の後も、きちんと塞がるはず。
けれど、傷は塞がらず、まおは目覚める気配はない。
さらに気になる点がもうひとつある。
なぜ、俺が兵士に囲まれていたとき、近くにいたのにアルバートに救出を頼んだか、だ。
たとえまだ魔力に慣れていなくても、まおならあの程度の兵士など、一瞬で片付けられるはずだ。
魔女で、魔力も桁違いなのだから。
……魔力?
「──おい、リカエル」
「なんでしょう」
「まおは、直前に魔力を大量消費するようなことをしていたか」
「大量消費……それなら、防御結界が! まお様は防御結界を取得したらしく、防御結界を身体に張っています!」
「しかし、まおの身体だけなら、まおの魔力はそう簡単には減らないはず……」
「まお様だけではないんです!」
必死に考えていると、涙をぼろぼろと溢すクコが甲高い声で叫んだ。
「なんだと?」
「まお様は、他にも防御結界を張っています!」
「──今いくつ防御結界を張っていた」
「私がっ、まお様を守ると約束したのに……!」
「私が、代わりにお答えします」
しゃくりあげてしまって言葉が出なくなってしまったクコに代わり、リカエルが静かな声で答える。
「……まお様自身を守られるものと私たち二人ぶんのもの、途中で出会ったあの10歳の天才魔術師の女の子を守られるものと、あと……城全体を守る結界です」
「……城全体……!?」
喉が、ひくつくのがわかった。
そんな巨大なものを、一人で?
しかも、ほかに四つの結界を張っていたなんて……。