あたし、『魔女』として魔界に召喚されちゃったんですが。
「帰ったぞ」
「お帰りなさいませ、カカオ王子」
城に入るなり、ズラリと並んで頭を下げているメイドと執事たち。
俺はそれを手を挙げて指示した。
とたんにその人の列は、キレイに消えて、またガランとしてしまった。
それぞれが己の仕事に戻ったのだ。
俺は再び城の外へ出ると、広い庭の方へ向かう。
そこには、ボルトがいて噴水の水を飲んでいた。
きちんとした飲み場はあるのだが、その飲み場は馬小屋にある軍隊の馬たちと同じ飲み水なのだ。
毎朝魔術師たちが近くの川から汲んで来ているもので、とても冷たい。
しかし、時間が経つとそれも常温になってしまうため、ボルトは冷たい水がいつでも吹き出る噴水の水のほうが良いようだった。
今日も大分頑張ってもらったし、ボルトは只の馬ではなく、人としての自我も持つ使い魔なので、誰も見ていないことを確認し、そこはあえて黙認する。
水を十分飲んで満足したのか、ボルトはこちらを見上げた。
黄金色の瞳が、噴水の水と太陽の光を反射してきらきらと輝いている。
〈……ちゃんと休め〉
「……ああ、 ありがとう。 また明日姫からの呼び出しがかかるかもしれない。 そのときは頼む」
〈承知した〉
馬舎に行ってボルトと別れを告げると、部屋へと向かった。
部屋の扉に手をかけ、ふと隣のドアを見つめた。
──まおの部屋だ。
今はもう夜中。
まおは起きているだろうか。
いや、そんなはずはない。
最近のまおは魔力の訓練にさらに精を出していると言伝で聞いた。
疲れているところをムリを言って、会おうなどと考えるのは、身勝手すぎる。
考え直した俺は、首を振る。
でも……またしばらく会えなくなるかもしれない……。
寝ているなら、せめて顔だけでも見ておきたい……。
そんな欲望が湧き上がり、気付いたときにはドアノブに手をかけていた。
「誰?」
久しぶりに聞いた、君の声。
それは耳の奥へと染み渡り、胸の奥を僅かに締め付ける。
寝ていると思っていた声の主は、どうやら宵っ張りだったようだ。
「……俺だ」
考える前に身体が動き、気づけば、俺はまおの部屋の扉を開けていた。