あたし、『魔女』として魔界に召喚されちゃったんですが。




 けれど、姫は顔を歪ませる。



「そう簡単に呼び寄せられるものでもないのよ。 天使を呼び寄せるには、なにか大きな代償が必要だと言われている。 しかも、代償を払ったとしても、もしかすると呼び寄せることができないかもしれない。 けれど、わたくしには失うものなどひとつもないわ!」



 そういった姫は、ピアスを大事そうに握ると、祈り始めた。


 すると、ピアスがじょじょに光を発しはじめる。


 そして……。



「ああっ……!」



 ピアスが姫の手の平から浮き上がり、目も開けられないくらいの光を発する。


 目が慣れてきてそちらを見れば、光の中央には大きな翼を背中に携えた人影があり、その翼が、バサリと羽ばたいた。



「──私を呼んだのは、誰?」



 澄んだ、少し低くて落ち着く声。


嘘っ、本当に天使を召喚したの……?


 まだ光がチカチカしていて、うまくその姿を捕らえきれない。


 すると、姫は天使に駆けより、その白磁色の手を取った。



「わたくしです! オスガリア帝国第一皇女 ローズと申します」

「オスガリア……」

「はい。 それで、このオスガリアに害をなすものがおりまして……。 天使さまに退治していただきたいのです」



わお。


さっきの鬼の形相は何処へやら。


そのかわいい困った顔。


眉をハの字に曲げて、瞳にうるうると涙を滲ませる。


手を顔の前で組んで、下から見上げてさらに小顔を演出する。


演技力は凄まじいな。



「害をなすもの……退治……」



 姫の言うことを繰り返す、天使。


この天使、やはり普通の人とも、あたしたち魔力を持つ者とも明らかに違う。


もっと澄み渡り、痛々しいほど真っ直ぐで穢れを知らない純粋な力。


 その未知で未曾有の力を、あたしとカカオはこれまでにないほど、警戒していた。



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