あたし、『魔女』として魔界に召喚されちゃったんですが。
16 それからのあたしたちは
あれからあたしたちは、まずオスガリアの兵士たちの取り締まりをした。
徴兵により、無理やり軍人として戦に駆り出されていた者たちは、解放され、軍の組織もうまく調整された。
そしてこの国の王族が追放されたと紗桜が国中に魔法を使って宣言したとき、少なからずあちこちから歓声が上がった。
この国の税金に、不満を抱いている者たちや、環境の悪さからオスガリア大陸の南部の小国に逃げ込んでいた者たちからだ。
そして、なぜかため息も聞こえて来た。
どうやら、ローズ姫のファンクラブの皆さん(特にオスガリア帝国軍の軍人に多かった)によるものだった。
しかし、次の瞬間にはそれは歓声に変わっていた。
それは白の美しい天使の存在。
その存在はこの国に新たなファンクラブを作ることになる。
そのとき、軍隊の指揮をとっていたのは、もちろん紗桜。
この国に天使が戻って来たということは、あっという間に広がった。
なんとまた紗桜は、オスガリアの頂点に立つそうだ。
昔の天使の伝説を知る者、そして今回の紗桜の活躍を知り、国民たちからの熱い要望による。
しかし当の本人は、どこか悲しげな表情で。
「私はあまり、人の上には立ちたくはないのよ」
「……でも」
「私は、過去にあんなことがあったから、まだ人を信じ切れていないのかもしれない」
そう言って、紗桜は悲しそうに微笑む。
その笑顔が、あまりに痛々しくて……。
あたしはなにも言えなくなってしまった。
けれど、次の瞬間には花が咲き誇るような笑顔を見せる。
「だけど、今の私は前とは違う。 今の私には、麻央がいるもの」
紗桜は、あたしに抱き着き、耳もとで笑った。
いいい息が!
耳にかかってるぅぅう!
「そんな、あたしはなにも……」
なんにも、できない。
紗桜に助けてもらってばかりなのに。
なにも、してあげられてないよ。
落ち込むあたしに、紗桜は笑った。
「なに言ってるの。 なにもしてないとは、言わせないわよ。 麻央には、私の支えなの」
「でも……」
「なにも深いことは考えなくていい。 ただ麻央は、素直に前を向いて、笑っていて」
素直に前を向いて、笑っていて……?
そんなことが、役に立つの?
けれど、紗桜のそのオッドアイに見つめられると、なにも考えられなくなった。