あたし、『魔女』として魔界に召喚されちゃったんですが。
なんで、なんで、なんで??
カカオと隣なんて……。
まず、単なる(カカオがいうには最高階級らしいけど)魔女だし、王族と同じ塔にいるなんておかしくない?
あたしの頭の中では、ハテナが飛び交う。
「同じ塔なんて、おかしくない?」
ようやく、言葉が口から出てくれた。
あたしが言いたかったことを、ちゃんと理解したらしいカカオは、頭を傾げた。
「まず、この部屋は俺の仕事部屋だ。 ここの部屋には魔術がかかっている。必要に応じて呼び出すことができるんだ。つまりこの仕事部屋も隣の塔である政務塔にもあるということになる」
「んん?」
難しい話すぎて、首を思いっきりかしげる。
カカオは物分かりの悪いあたしに眉をひそめた。
「俺が操れば、この扉からこの塔にくることも出来るし、政務塔に出ることも出来る」
あの部屋はあそこにあるようでない。
政務塔の扉から書室に入ってもこの扉から部屋に入っても繋がっているのは両方同じ部屋だということだ。
……つまり、あの有名な某アニメの扉みたいなことが出来ると。
「それにまおは魔女。 単なる魔法使いとは違う。同じ時代に一人しかいないといわれる偉大な魔女だ。 ほとんど王族と行動し、王族を守るのも魔女の仕事だからな」
「…………」
国を守る為に戦えとは言われたけれど、第一に王族を守れってこと?
でも、ここはサーチェルという地球とは違う異世界。
あたしの常識で考えたら、絶対意味ないだろうし。
今はそれを常識としてとらえるしかないんだ。
「それに、先程まおは王に謁見しないのかと言ったな」
「うん」
この国の頂点の人に、ご挨拶もなしにこの城に置いてもらうなんて、申し訳ないし。
しかし、カカオは次の瞬間凄まじい言葉を発した。
「この国に、王はいない」
「え──?」
王様が、いない……?
「もう、何年も前に崩御された」
「じゃ、じゃあ、今この国を治めているのは誰なの……?」
「……王子である俺だ」
カカオが、この国の頂点。
カカオが王子で偉い人なのはわかってた。
けど、これって実質カカオが王様ってことじゃない!
「なんで、王と名乗らないの?」
「戴冠式を行っていない。 それだけだ」
戴冠式を行っていない……?
なんだか、矛盾ばかりで言葉が出てこない。
「戴冠式は、魔女がいないと執り行えないんだ」
また、魔女……。
「つまり、戦争云々以外にも、まおが必要なんだ」
あ、あたしが魔女か。
「でも、あたし何もできないよ……?」
「いい。 戴冠式はこの戦争のゴタゴタが済んだら済ませるつもりだ。 詳しいこともそのうち話そう」
王様になるための戴冠式には、魔女が必要。
前王は、随分前に崩御された。
つまり、国民は長い間、カカオが王座につくことを待っているということ……。
ぐるぐるといろいろなことが頭の中で暴れ出す。
「?」
そのとき、何かが頭に置かれて、見上げるとそれはカカオの大きな手だった。
ポンポンと、あたしの頭を叩く。
……なんだか、子供扱いされてる気がするのは、気のせいだろう。
「そういうことだから、今日は休め。 いろいろあり、疲れただろう?」
さっきとは違う優しい声に、確かに身体が重いことに気がついた。
あ、途端に眠くなってきた……。
今の彼はなんだかとても優しくて、ベッドまで誘導してくれる。
「明日、朝は起こさせる。 明日はやらなくてはいけないことが多いからな」
そんな声を背に、あたしはほとんど意識がないまま、部屋に入るとベッドに突っ伏した。