あたし、『魔女』として魔界に召喚されちゃったんですが。
05 黒猫シュガー
食事が終わると、カカオに連れられ、あたしとカカオは愛馬ボルトに乗り、城下町へと繰り出した。
どうやら、あたしが城に住むということで、あの部屋にいろいろと生活に必要なものは揃ってはいたものの、服やらなんやらがきちんと準備できていたわけではなく、今回は買い出しという予定らしかった。
城下町はとても賑わっていて、通りごとに雰囲気が変わる。
最初の通りは市場のようになっていて、新鮮な果物や野菜、魚などがずらりと並ぶ。
その次の通りはレストラン街、とでも言えばいいだろうか。
さらにその次はショッピングに最適な、洋服店や化粧品店などが軒を連ねていた。
こういった賑わいは、あたしが住んでいた田舎にはなかったもので、どれも興味津々だ。
しかし、あまり時間がないと素っ気なくかえされてしまい、今回は諦めるしかなかった。
服や靴、ちょっとした化粧品をカカオに買ってもらうと、カカオはそれを一瞬にして城へと送り届けたようだった。
今のは、転送魔方陣というやつかな?
たしかに手のひらに魔方陣が現れてたから。
やっぱりうまく使いこなせると、便利そうだなぁ……。
あたしにも出来るかな?
そんなことを考えていると、
「ついたぞ」
ボルトが足を止め、カカオが声をかけた。
カカオに手伝ってもらい、ボルトから降りると、ボルトはまた、どこかへと消えていった。
ここはさっきの賑わっていた城下町よりだいぶ離れた場所にあった。
丘の上にぽつんと一軒だけ建っている。
王族がわざわざ下町まで降りて来てする買い物ってなに……?
すると彼は猫の絵が描かれた木の看板が掛かっている店に入っていく。
店内は六畳ほどだろうか、ひっそりとしていて、特に物は置いていない。
あるのは一番奥のカウンター、その手前に椅子が二脚と小さなローテーブルが置いてあるだけだ。
その先に植物の模様が彫られた木製の扉のようなものがある。
カカオが店の奥に、声をかけた。
すると扉が開いて奥から店主が汗を拭き拭き、出てきた。
小さな眼鏡を掛けた、背の高いおじいさん店主だ。
「これはこれは、カカオ王子様。 いつも当店をご利用頂き、ありがとうございます。 本日はどのようなご用でしょうか」
「ああ、ちょっとな」
どうやら、お互いに顔見知りらしい。
「そちらの女性は? もしかして……これですか?」
店主は少しニヤリとして、小指を立てる。
違うわ!
っていうか、王子に向かってその態度って……。
「いや~、ついに王子も女性と……」
「違う」
カカオは冷たい声で、店主のからかった言葉をバッサリ切り捨てた。
こんな風に冗談を言い合えるなんて……。
二人とも、結構仲がいいのかも。