あたし、『魔女』として魔界に召喚されちゃったんですが。
その瞳は、澄んだ金色をしていた。
瞳と視線がぶつかった瞬間、時間が止まったような感覚に陥る。
なんだか、やっと巡り会えたという感じというか……今まで一人でいたのはなんだったのだろう。
そんな気がしてならない。
この子と共にいることで、ようやく、あたしはあたしでいられる。
ようやく、一人になれた。
そんな、不思議な感じ。
何とも言えない幸福感に満たされた。
「──どうやら、無事選ばれたな」
カカオがそう呟いたかと思うと、黒猫が何かを伝えてきた。
〈俺の名前は、シュガー。 お前は?〉
「──麻央よ」
〈そうか。 俺たちはこれから一生を共に過ごすことになるだろう。 主従を結ぶ契約をする。 いいな〉
「うん」
〈俺の首筋に口付けろ〉
「へ?」
口付けるって……。
〈それが、主従の契約〉
その強く熱い意思を秘めた金の瞳に捕らえられ、身動きが取れなくなる。
〈さあ、契約を……〉
まるで、導かれるように、吸い込まれるように。
黒猫の身体を持ち上げると、その柔らかな毛並みにそっと口づけを落とす。
すると突然、黒猫──シュガーが光り始めた。
あまりの眩しさに目が眩み、思わず目を瞑ってしまう。
そして、視界が晴れると……。
「え?」
そこには、赤く尖った髪に青い猫目の、一人の青年が立っていた。
上がった口角の隙間から、八重歯がちらりと覗いている。
その彼は、シュガーなのだと、なぜかすんなり理解できた。
「俺はシュガー。 俺は代々続く魔女猫の血の元に、魔女 まおと契約する!」
「っ!」
突然その場に跪いたかと思うと、あたしの手を取り、その手に口づけした。
な、な、な、なにをっ!
案の定、あたしは真っ赤になってしまう。
だってシュガー、なんかカッコイイし!
カカオはカッコイイというより、キレイって感じがしちゃうし、シュガーは美少年かな。
歳もあたしと同じくらいに見える。
「いきなりキスって!」
「これは、契約さ」
シュガーはあたしの首筋を指差してどこから取り出したのか鏡を見せて言った。
天パの髪をどかして見てみると……そこには、小さな黒猫のマークが刺青のように刻まれている。
「それが契約の証」
「ほら」と、シュガーは首もとの服を下へ引っ張った。
すると、その首の周りに光が集まり始めた。
文字が現れ、帯となってシュガーの首に絡みつく。
字は魔界かなにかの言葉のようで地球人のあたしには読むことはかなわなかった。
ようやく光が収まったとき、シュガーの首にはごつい黒革で出来た首輪がついていた。