あたし、『魔女』として魔界に召喚されちゃったんですが。
「いろいろと急かしてしまってすまないな。 そういうことで、まお、こちらの二人が護衛隊の部隊長たちだ。 何か困ったことがあれば二人を頼れ」
「いやいやいや、ちょ、待ってよカカオ!」
「待て、とは?」
「いきなり引き合わせといて自己紹介だけして困ったら頼れって何も知らないのにできるかっ!」
無茶振りにもほどがある!
思わず憤慨すると、プスッと空気が抜けるような音がして思わず見渡せば先程の黒髪の人──エディさんが肩を震わせていた。
さっきはピシッとしていて敬語で礼儀正しいイメージだったのに、その姿に呆気にとられてしまう。
「お、王子に食ってかかってる……! こんな人、初めて見た……!」
「こら、エディ」
となりのふわふわ頭さん──フランシスさんがエディさんの頭をこつく。
そして、あたしに向かって恭しく頭を下げた。
「魔女様、申し訳ございません。 お見苦しいところをお見せしてしまいました。 彼に代わって非礼をお詫び申し上げます」
「ってなんでお前が謝るんだよ、フラン!」
どうやらお二人は仲がよろしいようだ。
けれど、仲が良すぎて間に入る隙がない。
「仲良くするのは後にしてもらってもいいか」と、カカオが止めるまで、二人の言い合いは続いていた。
「あの、すみません」
「何でしょう、魔女様」
恐る恐る話しかけると、2人ともすぐに姿勢を正してこちらを向く。
軍の直立不動の姿勢のまま。
その一糸乱れぬ動きに感心しつつ、圧迫感に圧されてしまう。
「その魔女様って言い方はちょっと……あたしはそんなに凄い人じゃないし、隊長方の方が歳上の方なので……よろしければ名前を呼んでいただければ……」
あたしは、すごくない。
まだ魔力だって使えないし、たったの16歳の何も知らない若輩者だ。
今までこの仕事についてきて命を張って必死に頑張っていた二人とは格が違う。
「……魔女様がそう言うのなら」
「それと、敬語もやめてほしいです」
「さすが王子に食ってかかる人だな」
さっと敬語を切り替えたエディさんにあっはっはと豪快に笑われてあたしは赤面。
今度こそエディさんは無言の笑みを浮かべるフランシスさんに頭を叩かれた。
それから話し合いの結果、エディさんからはまお、フランさんからは、まおさんと呼ばれることになった。
さらにフランシスは長いからフランと呼んでと言われたのでその通りに従うことにした。
「さて、こんなところにしてそろそろ俺たちも戻ろう」
今回は本当に自己紹介だけのつもりだったらしい。
呼び方を決め終わったところで、カカオは城へ戻るよういった。
「これからまおの指導を頼む」
「お任せください」
エディさんたちに見送られ、あたしたちは護衛隊の塔を後にした。