刹那との邂逅
 引くつく声が治まった頃、スノウはゆっくりと振り返った。

 それに合わせて、蓮も腕をそっと解いて、二人の距離はまた少し離れる。

 じっと見つめ合うとお互いに目が赤かったけれど、そのことについてはどちらも触れず、静かに言葉を零し始めた。


 「私、『一瞬のこの時間が欲しい』って気持ちを手に入れたかった」
 「一瞬?」
 「そう、一瞬。刹那」
 「刹那……」


 その耳慣れない言葉を反芻しながら、蓮はじっと前の少女を見据えた。

 ただの19歳とは思えないその発言の続きを、ただ聞きたかった。

 一体、彼女は何を言ってくれるのだろうか?

 その答えを堪らなく知りたくて、ゴクとツバを飲み込む。


 「いつかの長い時じゃなくて、今この一瞬。この刹那。それの価値は何だろうって」
 「刹那の、価値?」 
 「そう。『スノウ』を見た時、その刹那を見た気がした。毎日の放送に感動して、この物語には刹那がたくさん綴られてるって思った」
 「刹那が、綴られている……」


 反芻しながら、蓮は何かに胸を抉られたような感覚を得た。

 今まで、人生で一度たりとも『一瞬』なんてものに深みを感じたことなどなかった。

 しかし、スノウが言うにはドラマ『スノウ』には大切な一瞬がたくさん込められていると。

 思い返してみれば、雪だるまと過ごす毎日に同じ日なんて一つもなくて、いつ消えてなくなるのではと不安で、それでも少女のスノウに恋をし続けた少年の気持ちであの役を演じた、と蓮は思った。

 それは一つの物語ではなくて、刹那の塊だったというのだろうか。


 「でもね。あの作品で本当に大事な刹那は、あのシーン。アレを見た時、スノウは『いつかじゃなくて、今のために生きてきた』って思ってる気がしたの」
 「スノウが?」
 「うん。だから、私も自分の刹那が欲しいと思った。この為だったら、何を引き替えにしてもかまわないって思えるほどの『刹那』を」
 「それが、今?」


 ゆっくりと震えそうな声を抑えて蓮が尋ねると、スノウはただふわりと笑った。

 その顔は夕日に照らされて輝いていて、不覚にも蓮は生まれて初めてと言っていいほどの鼓動の速さを、その顔を見て感じた。
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