憎たらしいほど君が好き
『大好きだ、霞』

「あんたねぇ、私の方が前から好きだったんだから」

かなり思いきって言ってみたのだが、生憎電波が悪くて聞こえなかったらしい。
え、何々何て?と聞き返されてしまった。

「…二度は言えないよ」

『何だよー!』

「いいの。私そろそろバイトだから行くわ」


そろそろ、と言うよりかなりやばい時間だ。

もう家でメイクはできないだろう。


『あー、似合わねぇ格好してアイドルソング歌うやつ?』

失礼な奴だ。

「それだけの仕事じゃないから!ただのウェイトレスよ、そんな風に言ったらいかがわしい事してるみたいに聞こえるでしょうが!」

『はは、冗談だって』

「失礼な奴だね真人って!仮にも彼女の私にそんなこと言う!?」

『……言わねぇ』

「今言っただろうがよぉ、え?真人さん?」

『口調変わってんぞ』

「うっさい!」

『ふぅん、へえー』

何故か真人の声が不機嫌だ。


「何、どうしたの」

ちょっと心配になって聞いた。

『仮にも、じゃねぇだろ。本当の彼女だろ』


きゅうっと胸が締めつけられた。

何のご褒美?どういうサービスなんだ。


「ど、どうもっ。じゃあ私行くからっ」


恥ずかしくなって一方的に切ってしまったので少し名残惜しくなった。

溜め息をついて時計を見ると、いつもなら既に家を出ているだろう時間だった。
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