ある男の子と女の子の秘密のお話
哲郎の目が、私の目を見つめる。
「ヒカリに…
それしか、求めてなかったら
俺は、2年間もヒカリに
片思いなんてしてない
もっと、はやく
ヒカリに手を出してたはず。」
哲郎の言うことが
もっともすぎて
声にならない……
過去の思い出を、哲郎にまで
被せてしまっているのは…私だ。
哲郎の言葉はストレートに
私の心に響く
「哲郎…ごめんなさい
哲郎は、何も悪くない。
過去を終わらせてないのは、
私だね」
自分が言っていることが
恥ずかしくなって …
私は、立ち上がろうとした
もうわ家に帰りたかった。
哲郎は、そっと
私の指先をつかんで言った
「座ってよ…ヒカリ
俺は、ヒカリの話を
ちゃんと聞くよ?」
「うん…知ってる…哲郎は
話を聞いてくれる。」
今も……
「俺は、ヒカリが嫌がる事を
無理矢理したりしない
ヒカリが納得できるまで待つ。」
「うん…わかってる。」
「それに…今度から
ヒカリが怖い時は
俺が助けるから!
って…ドラマみたいな
セリフだな…w」
「うん…w」
私は、また
哲郎の横に座り込んだ
「てかゆうかね
俺と、サトルとかが
ヒカリが鈍感だって言うのはね
そんな、お人形さんみたいな顔して
綺麗なスタイルしてて
自分が、男の子から
見られている
自覚がないでしょ?」
「男の子から?
見られてなんかないよ…
看護科だし…
男子ほとんどいないし」
「ほら、そこだよw
実際に俺…
ヒカリのこと2年間見てた
今日も、あの男…
ヒカリを見てる。
あっ!!
今、ヒカリを見て振り向いた!
ってね…w
いつも見てた…女々しいけど。」
「それ…って
哲郎のことじゃないの?w」
「俺?!気にしてないもん!
無愛想だし…
仲良い奴にしか、本音言わないし
集団も、キャーキャー言う女の子も
めちゃ、苦手だがら
あんまり、周り見ない!w」
哲郎の
そんな性格の部分が良く見えていた
「俺、噂では
女の子と遊びまくってる
チャラ男って!言われてる!w」
見た目がねw
「ただの、噂じゃん…
そんなの」
「俺も同じだよ…!! 噂なんかで
嫌いになんてならない
ヒカリのこと。」
私は、頷くことしか
できなかった
哲郎は、いきなり立ち上がって
「ねえ!ヒカリ!
その、嫌な思い出
……消しに行かない?」
「はい?消しにいく?」
「花火大会って…河川敷?」
中学の頃に行った
花火大会は
たしかに、ここの近所の
河川敷だった
「でも、暗かったから場所は
覚えてないよ…
1回しか行ったことないし
真っ暗な場所…
としか…わからない。」
「俺と行けば
怖くないでしょ?
それに、まだ
日が出てるから暗くないし
もしかしたら…
何かわかるかもしれないよ!」
「何か?…わかるかも?」
「うん、今まで、
わからなかった何か!?」
哲郎の、言う通りかもしれない
わからないまま
終わっているから
消化できていない過去…
自分がキスされて
怖かった場所が
どこだったか、わからないなんて
迷宮入りした小説みたいだ。
哲郎は、私に手を差し出した
「2人で行けば、
怖くなんかない
行ってみる?」
私は、大きく頷いて
哲郎の手を取った
手をしっかりと
握ってくれていたから
不思議と、怖さはなかった…
河川敷に進んでいく哲郎の背中に
私は、黙って着いてて行った
「たぶん、ここが…
みんなが合流する広場
だったと思う!
すごく人が行き来する場所」
「哲郎…詳しいねぇ!」
「心の恋人…
サトルちゃんと…何回か
来てるw」
私は、小さ噴水が目に入った
たしかに、ここまでは
同級生と一緒だった
「そうだよ!
時間になっても何人か
来なかったから…みんなで
探しに行ったんだ!」
「大人数だ!w」
「でも、私は
地元じゃないから15分くらい
りんご飴の前で…待ってて…って
言われたんだよ…みんなに。」
「おお!新展開!w」
「私が、
りんご飴の前で待ってたら
その男の子が来て
『全員そろったから行こう!』って
私の手を
強く引っ張って行ったんだよ」
「計画的だな」
「私も、疑わないで
急がなきゃ…
みんなを待たせてしまうと思って
その男の子に着いて行ったんだ
どっちの方面だろ?」
「どっちだろ?」
もう、哲郎の声は
私の耳に
入ってこなくなっていた
過去の事を、色々と思い出してきた
もちろん、哲郎がいないと
こんな事、できなかったけど
あの時は暗くて
わからなかったことが
わかる気がした・・・
「花火が見えない
場所だったから
河川敷の方面じゃないんだよ
間違いなく…途中で
『ねぇ、どこいくの?』
って私、聞いた」
「そりゃ…
花火から遠ざかると
聞きますよね…
花火大会なのにね。」
私は、河川敷じゃない方面を
見渡していた…
何かを目印にして行った気がする…
!!!
「ああぁ!!!わかった!
思い出したよ!あのヤロー!
トイレに行きたいからって、
言ったんだ!
だから…
『あのビルのトイレを使うから
ビルの所で待っててくれる?』
って、ビルまで
手を引っ張って行ったんだ!」
「あの、ビル?行ってみようか?」
哲郎の手を取って
ボロボロのビルに向かった
ビルは2階建てで
平日なのに人気はない・・・
「ヒカリ…もう、5年以上
売り地の看板が出てる」
「真っ暗で…
看板も見えなかったんだ
でも、あのヤローは
トイレにも行かないで
迷わず…一直線に進んだ」
「こっち?…てか、
この道しか入れないね」
その道を
数メートル進んで…
そこに見えた景色に
私も、哲郎も唖然とした……
そこは、すごく狭い
スペースの行き止まり…
非常階段の昇り口だった。
周りはコンクリートの壁に
囲まれている
電燈などない
売りに出ていた…ボロビル。
「ねぇ、ヒカリ…
これ、逃げられないよ
花火が見える方向も
わからない場所だもん」
「……こんな事
いうのも変だけど
キスだけで終わって
よかった気がする…」
「俺も…そう思った…
この場所を知ってる男って…
ちょっと
イカレてるよ…ヒカリ!」
「だから
動けなかったんだ…私!
周りに何も見えない
暗闇な非常階段…!」
「ヒカリが…
無事でよかった!
ここに来て…俺
本気でそう思う。」
哲郎は真剣な顔で言った
私も、思わず鳥肌がたった…
真っ暗な
誰にも声も聞こえないビルの
非常階段の登り口。
サビついたドア…ホコリをかぶった
非常階段…
まだ、明るいのに
コンクリートの中は薄暗い
怖いドラマとかで
出てきそうな場所
哲郎も、私も、しばらく無言。
1人でも
ここに来る気持ちにはなれない
なんともいえない
不気味さがあった。
哲郎がやっと口を開いた
「ヒカリ…今まで
わからなかったことが
何かわかった?」
「うん、
逃げられなかった理由が
わかった…
こんな個室みたいだとは
思ってもなかった
方向が全く…わからなかったの
花火大会だったから、てっきり
屋外だと思ってたから…
なんで、手を振りほどいて
逃げなかったんだろう、私!って
ずっと、後悔してた」
「この場所を
知っていたその同級生が
ヤバイ…まだ、近所に住んでる?」
「いや…県外に引っ越した」
「それ聞いてホッとした…マジ。」
哲郎は、周りを見渡しながら
本当に、心配そうにしてる
「私、あの花火大会の時
相手の顔が見えてたら…
怖くて死んでたかもw
どんな顔して
ここに連れてきたんだろ」
「うん…ヒカリ…
マジ気をつけて」
「うん…そうだね…
今日は、
連れてきてくれて、ありがとう」