暗闇の恋
今日は午前中に講義を終え少しバイトをして今から帰るとまどかにメールを入れた。
あの日から僕はまどかをただの女友達から彼女と認識するようになった。
女として見ると、とても可愛くていじらしさのある子だった。
この一年間僕は彼女のなにを見ていたんだろうと思った。
一昨日まどかが家に来ていて帰ろうと支度をしてる時素直に帰ってほしくなくて抱きしめた。
「なに?どうした?終電逃しちゃう」
と、言ったまどかに一緒に暮らさないかと言った。
本気でそうしたいと僕が思ったんだ。
するとまどかは嬉しいと涙を流した。
その涙を拭うと、その手を取り愛おしく握りしめた。
僕はその仕草が愛おしく思った。
愛されてると感じた。
そのまま、まどかは泊まり次の日から少しずつ荷物を運んだ。
まだ一日なのに昨日学校もバイトも休みだったまどかは一体何回往復したのだろうかと思うほど、彼女の荷物は増えていた。
昨日帰った僕に頑張っちゃったと笑って見せた。
今日午前中の講義に一緒に出てまどかは自宅に荷物を取りに行くのと買い物して帰ると言っていた。

あの日から一週間あの子に会っていない。
あの子に会わない様に時間をずらしたわけでもない。
いいのか悪いのか、たまたま会わなかった。
今日もあの交差点を通る頃、あの子が帰る時間ではない。
だから、今日も会わない……えっなんで?
前からあの子がいつもの様に白杖を突いて歩いてくる。
彼女は見えない。
このまま何もせず、何も言わなければいい。
少しずつ近づいてくる。
すれ違う。
全神経が歩に注がれる。
交差点を渡り終えた。
周りが騒がしい。
振り返ると彼女がこちらを振り返ってる。
『やくもさん』
彼女のくちびるが僕を呼んでる。
きっと彼女は大声で叫んでる。
周りの人たちが彼女に注目してる。
信号が点滅しだした。
きっと音が変わったはずだ。
彼女には聞こえてるはずなのに一歩もその場から動こうとしない。
変わらず僕の名前を呼び続けてる。
僕はどうしたい?
そんなの考えるまででもない。
今すぐ彼女のそばに行って抱きしめたい。
でも……脳裏にまどかが出てくる。
今はもう、そんな事出来ない。
僕にはまどかがいる。
僕の勝手で振り回し僕の勝手で今がある。
なのにまた僕の勝手でまどかを傷つけることなんて出来ない。
それに僕にとって今はもう、まどかが…。
信号が赤に変わる。
向こう側の人の中から一人の女性が彼女のそばに行き腕を引いて歩道に歩いて行く。
彼女はその女性に向かって頭を下げると歩き始めた。
僕は彼女を目で追うのを止め家路へと急いだ。
このまま目で追ってると信号が青に変わった瞬間に彼女を追いかけてしまうから。
家で待ってるまどかの元に急いだ。
家が見えてきた。
アパートの前は補正されてない空き地みたいな場所。
そこに一定の間隔で何かを刺した跡があった。
その跡はアパートの階段で途切れていた。
暇な奴もいるんだなと思った。
部屋に入るとまどかの様子が変な感じだと感じた。
自分やましさがあるからかもしれない。
『何かあった?』と聞くとなんでもないと答え食器を洗い始めた。
後ろ姿を見ていると抱きしめたくなり近づいて抱きしめた。
まどかは振り返って泡だらけの手で僕の顔を触った。
二人で笑い合う。
この時間が大事なんだ。
あの時あの子を選んでいたら、この時間を失っていた。
僕は間違っていない。
僕はまどかを選んだんだ。






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