暗闇の恋
初めて虎ちゃんの家に泊まってから、何もない。
この1ヶ月家に行っても泊まることなく、帰らせられる。
あれからキスはしてる。
それも私からしてと言えば…。
虎ちゃんからは何もしてこない。
理沙に相談するけれど、大事にされてるってことじゃないと言われるだけで答えがでない。
長い間幼馴染みだった私たちは恋人にはなれないかもしれない。
それともやっぱり私に魅力がない。
もしくは障がい者と付き合ったことを後悔してるのかもしれない。
今日もまたここに来てしまった。
いつも虎ちゃんの玄関の前では緊張してしまう。
今日こそはと毎回覚悟はしている。
でも、どうせその覚悟は泡となってしまう。
インターホンを押した。
中から「は〜い」と声がしてドアが開いた。
「いらっしゃい。」
いつもと変わらず出迎えてくれる。
これは幼馴染みを?恋人を?
わからなくて不安になる。
恋をするって凄くしんどい。
もっと幸せで、もっと満たされるものだと思ってたから。
「お邪魔します。」
「もう少し待ってて、今生徒来てるから。」
虎ちゃんは二週間程前から自宅でピアノ教室を始めた。
これでいつ歩が来ても家に居てられると言ってくれた。
歩を教えるのも楽だから…と。
考えれば理沙の言う通り大事にされてると私も思う。
けれどそれは恋人としてというより保護者のような気がして不安になる。
でもそれを虎ちゃんに直接言ってしまったら、面倒くさいと思われたらと思うと言えない。
ソファに座ってまだぎこちないピアノの音色聞いてる自分の子供の頃を思い出す。
30分程して生徒は帰って行った。
「ごめん、今日の予定言ってなかったから、待たせちゃったな。」
「ううん大丈夫。今の生徒さん弾き方に少し癖があるね。」
「そうなんだ。何度か言ってるんだけど、なかなか治らなくて…」
「早いうちに治したほうがいいもんね…」
「う〜ん、そうなんだけど…あっ歩もうすぐ夏休みだろ?」
「うん、あと二週間ぐらいかな。」
虎ちゃんの声が弾んでる。
「夏休みなんか予定ある?」
「ううん、ないけど…」
「旅行行かないか?…二人で。」
「えっ?」
「おばさんにはもう承諾してもらったんだ。」
いつの間に…お母さん何も言ってなかったのに。
二人で旅行…虎ちゃんは私を嫌になってなかった?
思わず泣いてしまった。
「歩!なんで?!旅行嫌なら行かない。止めにするから。」
「違う…違うの。ずっと不安だったの…」
「何を?」
「だって虎ちゃん何もしないんだもん。キスだっていつも私が言わないとしないし、いつも帰らすし…私のこと嫌になったのかなとか、幼馴染みだからかなとか、いっぱいいっぱい考えちゃって…」
「ごめん…そんな事ないよ。俺は歩を好きだよ。幼馴染みだからじゃない。ちゃんと女として好きだよ。でも…」
虎ちゃんが言葉を詰まらせた。
不安に押し潰されそうになる。
「でも歩は全て初めてな事ばかりだろ?だから特別な物にしたかったんだ。歩にとっても、俺自身にとっても。」
「虎ちゃん…」
「俺だって緊張するんだぞ。好きな子にほいほいキス出来ないよ。大袈裟かもしれないけど、この家に閉じ込めて俺だけの物にしたい。でも、そうゆうわけにいかないだろ?!だから…」
「もういい。わかった。虎ちゃんがどう思ってたかわかったから。」
「じゃ答え聞かせて。二人で旅行行こう。」
「うん。行きたい。」
「じゃ何処行きたいか考えといて。」
虎ちゃんと初めての旅行。
まだ先の事だけど夏休みが凄く楽しみになってきた。
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