暗闇の恋
二週間はあっという間は過ぎた。
気持ちは長く感じた二週間だった。
今日は終業式。
明日から4泊5日で沖縄に行く。
何もかも初めての旅行になる。
好きな子と旅行行くのも、歩の水着姿も、歩と…。
考えただけでたまらなく緊張してくる。
余計な事ばかり考えてると、必ずボロが出る。
何かしら失敗するものだ。
ただ単純に楽しもうと思った。
旅費は歩の分も俺が出すつもりだった。
それぐらいの蓄えは余裕にある。
けれど、おばさんは未来に取っておきなさいと10万もくれた。
多いと言ったけれど、お小遣いで取ってなさい。子供は遠慮しないの!と言われ俺はおばさんの優しさを受け取った。
正直有難いし嬉しかった。
おばさんが言う未来は結婚の事。
俺はこの旅行で言おうと思ってる。
早いのはわかってる。
正式なプロポーズじゃないけど結婚したいと伝えたい。
旅行最後の日、歩の16回目の誕生日。
結婚出来る年齢になる。
俺はこの先ずっと歩にいて欲しい。
ずっと歩を守っていきたい。
明日お昼の便で沖縄に行く。
携帯がメールを知らせる音を鳴らした。
携帯を開けると歩からのメール。
《今日は虎ちゃん家に行かない。明日楽しみにしてる。》
《なんで来ないの?》
すぐに返事が帰ってくる。
《明日まで会うの我慢してみたいの。その分明日がもっと楽しみになるでしょ!》
なんて可愛いメールをしてくるんだよ!?
すぐさまメールを保護する。
残しておきたいメールだ。
《わかった。俺も楽しみにしとくよ。》
本当は今日も会いたい。
歩と付き合うようになってから一日も会わない日はなかった。
学校の帰りは必ず家に来てたし、休みの日は二人で出掛けたりした。
付き合う前はピアノの日しか会わなかった。週一度だけ。
たった一日だけなのに我慢しなきゃならない。
人って本当に貪欲な生き物だと思う。
今日は終業式だから昼には来るんだと思ってた。
さてと…午後は何しよっかな…。
旅行の用意は済んでるし、今日は教室もないし…歩と付き合う前の暇な時間の過ごし方はすっかり忘れてしまってるみたいだ。
久しぶりに母さんが淹れてくれてた様に紅茶でも淹れてみようかな。
台所で茶葉を探すけれどあるわけがない。
「買いに行くか…」
財布を手に取って家を出た。
日差しが高い所から照り付ける。
歩き始めると数分も経たないうちに汗が額を流れていく。
駅前に母さんがよく行っていた紅茶屋さんが今もある。
久しぶりに店内に入ると懐かしい香りに包まれた。
俺はオレンジペコとダージリンを買って店を出た。
そうだ、本屋で小さめのガイドブックを買おうと本屋にも寄った。
いい本が見つかって俺は家に帰った。
家が見えてきた。
クーラーをつけたままで出てきたから、家に着けば天国が待ってる。
あれ、門が開いてる?確か俺はちゃんと閉めて出たはず…。
門を通ると玄関前で歩が座ってる。
俺の足音に気付き歩は顔を上げた。
「虎ちゃん…何処行ってたの?」
歩は足音で誰かわかる。
人それぞれ癖があるのと言っていた。
「そんな事よりなんで?」
「とにかく家に入れて。暑くて溶けちゃう!!」
「あぁごめんごめん。」
急いで鍵を開けてドアを開けた。
ヒヤッとした空気が流れてくる。
「うぅ天国だぁ!」
歩はリビングのソファにダイブした。
可愛いけど無防備すぎる。
スカートがめくれ下着が見える。
あの足に触れたくてたまらない。
明日までの我慢だと言い聞かせた。
歩は起き上がりさっきの会話の続きを話し出した。
「で、何処行ってたの?」
「駅前の紅茶屋さんと本屋さん。で、なんで歩はここにいるの?」
「いちゃダメだった?」
少しふくれて言う。
「そんな事ないよ。今日は来ないってメールしたから…。」
「うん…そのつもりだったんだけどね。我慢できなかったの!やっぱり会いたくて。」
明日までの我慢が吹き飛んでしまう。
さっきの足といい、このセリフといい、俺の自制心は簡単に吹っ飛んだ。
思わず歩のそばに行って思いっきり抱きしめた。
「びっくりしたぁ!」
「歩…可愛い。」
そのままキスをした。
「ん…ちょ…ちょっとまっ…待って。」
「歩…」
やばい。ブレーキが効かない。
「虎ちゃん…ストップ!」
「やだ。止めない。」
首筋にキスをしながらシャツのボタンを外して行く。足に触れそのままスカートの中に滑らせていく。
「虎ちゃん!!嫌っ!」
しまった。
我に帰る。
「ごめん…歩。こんなこと…」
「大丈夫…私平気。」
「でもこんな…大切したいって言ってる奴がするようなことじゃない。」
「本当に大丈夫だから。」
歩は俺の頬に手を当てた。
「こんなことって言うけど、それだけ私が好きってことでしょ。」
凄く大人で凄く綺麗に思えた。
「したいだけなんて思わない。私が好きでたまらなくてしたことは私にとっても幸せに思えることだから。」
「歩…俺…」
「いい…わかってる。虎ちゃん…明日までなんて決めないでいい。スペシャルな日にしてくれなくていい。だって毎日がスペシャルなんだもん。」
いや…それはダメだ。歩がこうやって言ってるけど、俺はスペシャルな日にしたいんだ。
俺は歩から離れた。
「虎ちゃん??」
「ごめん…ちょっと頭冷やしてくる。」
俺は風呂場で冷たいシャワーを浴びた。
シャワーを止めると脱衣所で音がした。
ドアを開けると歩がいた。
思わず前を隠す。
自然な行動とはいえ自分はバカだと思った。
そんな事より歩の姿に目を奪われた。
歩は下着姿でそこにいた。
「なっなにやってるんだよ!?」
「私覚悟を決めてるもん。」
急いでバスタオルで歩を包んだ。
「わかってる。わかってるよ。俺に覚悟がなかっただけなんだ!」
「虎ちゃんが?」
「俺だって緊張するし、歩以上にスペシャルな日にしたくてたまらなかったり…だから旅行まで我慢したいんだ。」
「じゃなんであんな事したの?」
「それはごめん…自制心が崩壊してしまって…」
歩は笑い出した。
「崩壊って…。はぁ緊張して損した!じゃあっち向いてて服着るから。」
「わかった。終わったらノックして。」
俺は浴室に戻った。
少ししてからノックがした。
体を拭いてリビングに戻るとオレンジペコのいい香りがする。
「あっ虎ちゃん…紅茶淹れたよ。」
「あっありがとう。」
「おばさんよく淹れてくれてたよね?」
「あぁそうだな。」
久しぶりのいい香りが部屋に広がる。
「これ飲んだら帰るね。」
「えっ?もう?」
「うん、まだ用意し終わってないから。」
「そっか、わかった。明日9時に迎えに行くから。」
「うん。じゃ、帰るね。」
俺は歩を見送ってもう一杯紅茶を淹れた。
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